「海だー！」

うちは初めての海に感動していた。
実家の周りは山ばかり。
川や湖で泳いだことはあるけれど、海を見るのはこれが初めてだった。
思っていた以上に、海は、でっかい。

しかし、
記念すべき海への第一歩を踏み出す前に、
うちは気がついてしまった。

「あ、花子、どうしよう」

いくら意思をもっているとはいえ、花子は普通の市松人形。
海水に触れたら傷んでしまう。
しかし、花子を置いて海で遊ぶのも…。

「ねぇねぇ花子、うち、いいこと思いついちゃった！」




着物が濡れないように、手ぬぐいを何枚も重ねて。
お店で売っていたビーチボールの中に押し込んだ。
花子は文句を言ってきたけど、これも花子のため。
我慢してもらうしかない。

え？どうやって押し込んだのかって？
それは花子を……

(日記はここで終わっている)

こんなふうにね、と両腕で後ろ髪を絞ると水が滴り落ちる

とはいうものの、かなり消沈している。