夏祭り、という響きを聞くに神社仏閣の周囲で開かれるそれかといささかの勘違いをしていたのだが、要は休みだし海で好き勝手に騒ごう！　ということだと聞いて、俄然張り切ったのは意外にもカレンちゃんだった。
「お嬢様！　海！　とくれば勿論水着が相応しいですよね……！」
　自分に正直で何よりである。
　早速、と言いながら常に背負っている柩を下ろしたかと思うと、扉を開いて大量の水着を引っ張り出してきたあたり、実は以前からずっと機会を伺っていて事前に用意していたと見た。
　色とりどりの水着に瞳を輝かせてどれがいいかなあ、と選んでいるルクリちゃんはそんな思惑にはおそらく気づかず単純に喜んでいるのだろう。だが、
「海って見たことない！　しょっぱいって聞いたけど、飲めるかなあ……！」
　などと言っているのには止めておくように釘を刺すべきか。
　放っておくと海に着いた途端に実行しかねないことであるし。
「るくりん、海水より夏場はかき氷がオススメだよ！　キーンってなるの！」
　キーン、のところで頭を抑えて顔をしかめるフリをするのはトーカちゃん。山のような衣装を前に落ち着いているのは、職業上の慣れというところだろうか。もしくは、既に自分用の水着を用意済みと見た。
「そうねえ、かき氷が出来るなら、折角だし水（すい）とか黒蜜宇治金時……ああ、梅酒なんかもいいわね〜」
　のんびりとした様子で水着にはさして興味を示さずに呟く真那霞さんは、シロップがわりに酒の名前を出すあたり、泳ぐ気はあまりないのだろう。……が、ルクリちゃんが「これ似合いそう……！」と、瞳を輝かせて真那霞さんを見ているので、水着姿になるのは確定のような気がする。
「……海には、あまり縁がないんだが」
　常に一歩離れたところで女性陣に混じらず見守っているセロさんの言う事はまあ予想通りである。山間の川で魚を取ることはあっても、海辺に出て銛で海魚を突き刺すイメージがないのは、その肌があまり日に焼けていないからだろうか、それとも繁みで息を潜めて獲物を待つ狩人の雰囲気のせいだろうか。
「まあまあ、別に無理にとは言わないけれども、折角だし一緒に骨休めと行こうじゃないか。
　案外人数が集まるようだし、普段出会わない面々と色々と話して情報が得られる機会でもある」
「そういうものか？」
「海の開放感というか、そういったもので口が軽くなる可能性は大いにあるよ」
　まあ彼が求める情報が得られるかどうかはわからないが、そんな裏の事情はさて置き、
「あと、スイカ割りのスイカがあれば嬉しいな」
　という事情で、否応無しになるのは必然なのだった。





「で、なんで営業中なん」
「稼ぎ時に見えたんで、つい」
「お好み焼きに焼きそば、焼きとうもろこし、いか焼きなどの鉄板物に飲み物、かき氷……。
　つい、でこの品揃えですか。流石は旦那様」
「これでも随分控えめにしたつもりなんだけどね？」
　夏の祭りに対し、彼女たちに何かあっては、と一度下見をしておいたのだが、その際今夏は営業する余裕がなさそうな閉まったままの海の家があったのだ。
「まあ、折角だし借り受けるよね」
「何が折角なんか全然わからんわ」
　『海の家〜〜花屋敷〜〜』と看板をかけられた建物を前に、うへぇ、とうんざりしたように唇の端を下げたサクロと、抜け目なく横に掛かったお品書きをチェックするユーグを尻目に、日除け傘の下でいい仕事をした、と数度頷く。
　普段より休みで人が増えている分、この調子ならば用意した材料すべてを夜の間には売り切ってしまえそうだ、と試算する。
「確かに繁盛しているようですが、……こちらも手伝った方が良いでしょうか」
「あ、いいよいいよ、現地雇用した子達の訓練も兼ねてるし、まだ奥に人手はいるから。
　それに、ユーグが混じると、……ほら、何か違う気がするし」
「…………」
　精力的に働いている従業員を見守るフリで視線を逸らし気味にしてみたのだが、パーカーフードの下から無言でこちらを見てくるツグミくんにはこの濁した言葉がなんとなくバレている気がしないでもない。
「そうですか……ならば、必要な時にはお呼びください」
「ありがとう、そうするよ。……夜とか、似合うかもだし」
　何しろこの紳士は、TPOを弁えてなのか普段のスーツから何と言うか、……その、全体的に、胡散臭いとチャラいの間のような格好になっている。日差しに弱い瞳を守る為に掛けたグラサンがさらに倍率ドン！　だ。
　本人にそんな意識は一切無いだろうと思うのだが、何と言うか、どうにもその筋の人、の匂いがするのだ。
（まあ、あながち間違ってへん気がすんのが問題なんかもしらんなあ……）
　花屋敷自体は四方に手を伸ばしているが、サクロとユーグの担当範囲は一部そういった後暗い部分も含んでいる。
　自分を棚に上げる気はないが、……うん、夏の日差しの下で二人が並んでいるのは、何か違う。
「あーもー暑いわぁ……サルー、サル子やー、かき氷、ブルーハワイー」
　両手を差し出して無心するサクロに、にっこりと用意しておいた一式を手渡すように指示する。
「……なんなん、コレ」
「家庭用かき氷機やけど？　多少は涼めるように気ぃ使ってペンギン型」
「自力で削れてか！」
「働かざる者食うべからず、っていい言葉やんなあ」
「ってそない言いながら一人で食うてるせこいんが居るー！」

　しゃくしゃく。
　宇治抹茶、美味しいなあ。
「ちーちゃん、きーちゃん、一緒に食べようかー」
　向こうの方で遊んでいる水着の少女組を微笑ましく見守りながら、己のエンブリオを呼んで膝に座らせる。
　先日仕立てさせた浴衣の肌触りは悪くないので、まあ、その分は大目に見てやるとしようか。

「皆、何か食べたいものがあれば言いつけてくれれば用意するよ。
　仕方ないから、そこのサクロのの分も、なー」



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