ENo.896 ミリア・イグ・ルヲズ

case.2 part.3 海嶺調査
ニリル海峰群に潜むモノ1
……
…
所は潜航艇第4層居住区画の一角、
しばらく海中を進んでいると、不意にいままで船内に微弱に響いていた音が変化したことにイアは気づいた。

イ｢ん、今まで鳴っていた駆動音が変わった?｣

”よくわかりましたね、といいますか自分には静かそのもので
私たちや船員の立てている音のほうがよっぽど大きいと思うのですが…
…それは置いといて、駆動音が変わったというのなら、入江外に出て潜航艇周囲の海流が大きく変化したから、
その圧力に対応するために推進のみに向けていた駆動回路を姿勢と方向の制御にも使い始めたんでしょう、
時期的にもちょうどその辺りでしょうしね。
それに、外に出たのならば、さらに潜るために浮動機関も出力を上げてるでしょうしね。”

”さて、ここにいても仕方ありませんし、潜航艇内や外部を見に行きましょうか。”

イ｢いいのか？潜航艇内を見てしまっても｣

”本当のところは部外秘なのは確かですが、いっていても仕方ないですし、
いざとなったら時にある程度の操作知識を持っているものが
健常な状態であるという保証もないですから…
そういったモノもある程度共有しておいたほうがいい…しておかなければならないという
この研究棟そのものの方針です。
それに本当にいけないというのなら、そもそも同行自体が却下されているはずですしね。”

イ｢そうか。まぁ、そうなんだろうな、なら遠慮せず行って見ようか。｣

”です。”

イ｢で、どこから回るんだ｣

”…どこからがいいですかと聞こうと思ってたんですが先に持っていかれてしまいましたね、
では、近場から…第4層からにしましょうか。”

イアたちは部屋から外に出ると居住区画をうろつく。
居住区画を一周した後その周りを取り囲んでいる研究区画に足を運ぶ。

研究区画の設備を見てみると、地上の研究棟のような工作実験的な設備は少ない一方で、
様々な方法で試料を分析するための装置が8割以上を占めていた。
残りはサンプルを外環境のまま保管するための加圧機器や、
破損した部品を交換しても再び壊れるなど設備自体にあると思われるときなどに使われる
小規模な製作機械類などで占められていた。

続いて第5層と第1層を一通り見て周り物品の位置をある程度把握した後、第2層に来ている。

奥から2本の角を備えた白い甲虫が現れる。

”と、紹介します。この方はビオトープの総合管理者を務めている”――”さんです。
ここのことは自分はあまりわからないので聞きたいことがあれば彼の方にお願いします。”

イ｢そうかよろしくお願いするよ。｣

”どうもはじめまして、イアさんですね？”

イ｢ああ、そうだ。ここの紹介をしてもらっていいかな?｣

”ええ、大丈夫ですよ。
まず、ここは言葉のまま、生態系を限られた区域の中で廻し続けるというモノですね。
ただ、それだけではここに在る意味が無いのでここに乗り組んでいるクルーのための
リソースを定常的に供給するという人工的な自然環境という意味合いもありますね。”

イ｢ビオトープは閉鎖されているための物質因子の汚濁の均一拡散や
狭域に閉じ込められているゆえの競争因子が強く働きすぎるために画一劣化が起こるはずですが、
そこはどのように解決しているのですか。｣

”ええ、そこなんですよね、キーポイントとなるのは。
均一拡散については複雑に物質流を造ることで
汚濁濃度にムラを造ってやることで解決可能ですし、
画一劣化に関しては汚濁のムラとモザイク状バッチにするという方法で解決できます。”

イ｢そんなに簡単に言うがその程度では…中々上手くいかないはず…
…そうか、CAE魔導回路の余剰エネルギーを用いて上手く状況を混沌化しているのか。
あまりほめられるような方法ではない上、
このような多層構造でしか上手く機能しないような生態系ではあるが、
状況とニーズを上手く組み合わせることで効率的に行えている…といったところか。｣

”!!!そういった知識もお持ちなのですか、大まかにはそうですね。
といいますか、よくこの短い間にここまで把握できますね。”

イ｢まぁ、こういったものは昔作ったこともあるしな。｣

…意気投合したらしく、しばらく2人で語り合っていると、《ズズン》一帯に衝撃が走る。

何かにぶつかったのか、と思いながらしばらくじっとしていると…

”ただいまの衝撃はニリル海峰群のひとつにぶつかったためであると思われます。
航行に支障が無いか確認したあと、潜航を再開します…と大丈夫とのことです。
現在の潜航深度が予測より深くなっており、そのことが原因で起きたものと思われるんだそうです。
現在深度は827 m、入江と海嶺の中間点よりさらに海嶺側に入っていまz”

再び艇内に衝撃が走る。

”ただいま再調査をしておりますので少々お待ちを、”
を言うと放送が途切れてしまう。

”どうしたんかねぇ。”

イ｢センサーにでも映っていないようなものにでもぶつかったのかな?…なんて。｣

”さすがにそんなことは無いと思いますが心配ですね。”

イ｢どうします?｣

”そうですねぇ、センサー類コントロール室にでもいってみます?”

イ｢決まりですかね。｣

マイペースかつ邪魔になりそうなことこの上ない2人は置いといて、
《艦橋司令部とコントロールセンター》

”どうした、何が起こっている、対処はできたのでは無かったのか?”

”2回ともセンサー類に反応が無い位置でぶつかっています。”

”どういうことだ。”

”わかりません、しかし、この場にいてはまた来る可能性もあります。
ですので、私は一時後進することを進言します。”

”むぅ、今のところ被害もあまり無いようだが、原因がわからないことには仕方ないし…
仕方ない一時後退の指示を出せ。”

”了解しましたー。”

”こちら艦橋司令部このままの前進は危険を伴う可能性があるので、これから後退します。
各員は加速度に気をつけるように”

case.2 part.3 fin.