ENo.577 ラスティ＝ノッカー

――――また夢を見た。
『彼』が居なくなった後の夢だ。

客観的に見て『彼』は汚染された世界の生まれにしては長く生きた方だった。
若い頃は色々と大変な目にもあっていたけれど
人生の後半は良きパートナーと子宝に恵まれて順風満帆の老後を過ごし天寿を全うした。

「なのに……なんで『わたし』はまだ消えないのかしら……？」

『彼』が居なくなってからの私は文字通り抜け殻になって無為に日々を過ごしていた。
こういう時この幽霊のような体は損だ。
……何もしなくてもなんとかなってしまう。

そんなある日、何か胸騒ぎがして『彼』の墓標に（転移して）行くと先客が居た。
旅装束を身に纏った男の子供。
私がその横顔を見て言葉を失っていると気配を感じた子供が振り向き、口を開いた。

「やぁラスティ、探す手間が省けて助かったよ★」
「お前は……ナナシ？」
「ピンポーン★、大当たり〜」

――――名無しの怪物、通称ナナシ。

――――『わたし』の父が汚染された世界を浄化する研究の一環として作り出した
『どんな汚染環境にも適応して生きていける人工生命体』。
耐久力は人間の子供と同程度だが自己再生・環境適応力に優れ、
これ等の能力を応用して外見を様々な姿に変形させる怪物。

その怪物が子供の頃の『彼』の姿をして私の目の前に居る。

「それでお前は『その姿』で私に何の用なの……？つまらない冗談を言ったら燃やすわよ？」

次々と湧き起こる嫌な予感に声が震える。
私の知る限りこの怪物が『彼』の姿に変身したことは今を除いて過去に一度も無い。
なのに今は『彼』の墓前で、『彼』の姿で笑っている。

「宝探しの旅に行くんだ。ラスティもおいでよ、本とにらめっこより楽しいからさ★」

私の中で『わたし』が警告する。これは夢だ、夢だから聞く必要は無いと

「宝さがしって……何を？」

駄目だ、怪物の口をふさげ、縫いつけろ、丸ごと燃やせ！
『わたし』の中の警告が激しくなっていく
既に知ってるのに、私はこの先の答えを知ってるのに疑問を口にした。

「ボクとラスティにとっての宝なんて一つしか無いよ！――の『魂』さ！」

『彼』の姿をした怪物は……ナナシは……淀みなくそう言った。