ENo.1823 大楽寺三郎

街について早３日。
なんの収穫もないままに俺達はただ稼ぎをしている。
なんだかこのままでは非常に危ないと個人的な直感は告げている。
幸いなのは宿屋をとって毎日それなりに元気にやれているところだな。
髭も剃って、汚れも落ちて清潔感溢れる雑巾になった。

ん？なぜ雑巾かって？（誰も聞いてない）
女の子はケーキとかそういう甘いものでできているという例えがある。それに対して男は雑巾とかそういうものだっていう例えがあるんだ。+BR+故にこんなにも格好良かったとしても男は総じて雑巾とかそれ以下だ。

「故に、男は上等たる女性には尽くさねばなるまいよ」
　俺はそう考える。
　男なんぞに媚びを売るのは勘弁だ。死ぬまでNOだ。
　女性ならば歓迎しよう。
　ダマされるのも無茶を言われるのも許してしまおうと思う。
　自由で縛られることなく無茶をやってワガママにやるのは女性の特権だ。
　ただし、美女に限らせてもらう。
　ただ、男であれ女であれ、借りた恩はいずれ必ず返す。これは礼儀だ。
　例えば……そう、自分に魔法が何たるかを教えた師であり友人であったアイツ……返したくても返せなくなった恩は心に残る。そういうものだ。
　いかんな。感傷に浸るのはあまり趣味じゃない。
「とはいえ、この街は静かすぎてどうにもな…」
　人の出入りが多く、中には暴れていくものもいる。そりゃあ、街の人達も警戒するって話だわな。
　俺のような紳士ならともかく、そういう野蛮な手合いは何処でだってご遠慮様だろう。
　とは言うものの、意外とこの世界は生きていくためにやるってやつが多くて快楽のためっていうのは意外と少ない気がするな。
「例えば、俺様のような英雄で天才大魔導師もいる訳だしな」

――はっはっは、この間無様にも敗北を喫していた者の台詞とは思えない。

　耳障りな声が響く。
「……またか」
　人様を小バカにするようなそれでいて試して遊んでいるようなそんなクソったれた趣味をしてやがる癪に障る男の声が脳内に響く。
　正直に言おう。
　不愉快だ。
「どこのどいつだかは知らねぇがお前は青い鳥＜ブラウアー・フォーゲル＞じゃねぇんだろ？雑魚は引っ込んでろ」
　そう、奴ではない。
　存在しながらこの世界には無で在り続ける。言うならば相対的に無である存在の奴、神の端末の一つたる青い鳥＜ブラウアー・フォーゲル＞。
　俺が討滅してもなお存在し続ける。存在していていない者。

――ツレナイなぁ兄弟。お前は既にオレ以外の同類とも接触したんだろ？なら、解るだろ？

　同類。
　確かに一度戦ったことがある。あれは、状況的に戦わざるを得なかったとは言え、同類だったとしてもアイツは桁違いだ。
　『存在する全てを総べて自分の理に書き換え無効化し、相手を常識化させる』などどういう理屈で行なっているっていうのだ。
　まだ、魔法や魔術を解かれ続けるほうが現実味があった。
「だから、解ることがある。お前は、アイツ……バレンシア・ナバスクエスと比べたら酷く雑魚で卑怯に高みの見物を決め込んでるってな」

――言ってくれるな、兄弟。確かに天上たるアレと比べられるとオレは立つ瀬がない。

　少し笑いながらそう言う声はどこまでも不愉快だった。
「――名乗れよ雑魚。人の頭の中に声を響かせて、不愉快なんだよ」
　そう言うと響いてた声から少しだけ陽気さが消えて、再び声は響いた。

――いいだろう。いずれ君とは対峙することがあるだろうしね。
オレの名前は九宮、九宮小次郎。君と同じくあの世界ではイレギュラーとして存在する者だよ

　なるほど、本当に同じ世界の出身者って訳か。
「そうか、お前が管理者＜マスター＞の九宮か。前に青い鳥が言ってたよ」
　そう言うと息を飲むような空気が何処からともなく伝わってきた気がした。
「『管理者が最も御し易かった』ってな。解る気がするぜ？お前は環境に飲まれやすいだろ？相手を軽率に判断し見下すだろ？お前は青い鳥になんて称されていたか教えてやるよ」
　恐らく、この一言は九宮を壊すであろう一言になる。
　そしてそれは恐らく青い鳥の掌の上だとしても俺のイラつきが言葉を続けた。
「堕ちた城だ。お前は勝負の土俵に立つ前から負けてるって言われてるんだよ！」
　しかし、聞こえて来たのは予想外の返しだった。

――ふっはっはっはっ、なるほどなるほど。確かに言い得て妙だ。
だが、言葉を伝えてくれてありがとう。より決意が強まったと言っていい。
ありがとう、銀の王よ。

「ああ、そうかい。とっとと消えてくれ耳障りだ」

――それは済まなかったね。しばらくしたらまた見に来るよ

「二度と来るな」
　そう言うと繋がっていたかのような感覚もなくなり、ようやく思考がクリアになる。
　次来たら対峙する時とやらにぶん殴ってやる。
　全く面倒な奴に絡まれたもんだ。

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今日も今日とて情報収集
しかし、目ぼしい情報の収穫はないし、最前線を言っているという連中の噂からも出口に関する情報はない。

「今日も不作か・・・このままじゃ村の行く末が不安だぜ」
　と帰り道合流したシアたんに愚痴りつつ宿屋のロビーに入る。
「いっそ海でも渡れれば速いのだが……そう都合のいい話もないな」
　なるほど、船か。
「船か・・・そーいやこの世界じゃまだ見かけてないな。漁とかしてないんかね？」
「釣り人はいたが……これだけ入り組んだ陸の形をしているというのにな。野生生物が凶暴だからかもしれないな」
「あー……なるほどな、そう言われると合点するな。どちらかと言えば細々と農作物って感じだもんなー」
　野生の生物が凶暴故に大っぴらには作物が作れない。
　ま、野生生物だけが凶暴って訳じゃあないが。
「――三郎さん、シンシアさん」
　少し思案にふけりかけたところに悩み多そうな乙女がやってくる。
「お、あげはちゃん！」
「何かあったのか？」
　シアたんと俺がほぼ同時に反応するのを見て、あげはちゃんは察したように
「いえ、特には……お二人もあまり収穫はなかったみたいですね」
　と言った。
　期待はされてなかっただろうが、俺は残念そうに両手をひろげて肩をすくめる。
「微塵にも、て訳じゃあないが前に得ている情報とさして変わらないな」
「地図の開拓はだんだん進んでいるらしいが……相変わらず先が見えないままだ」
　少々うんざり気味にシアたんが続けた。
「そうですか……私も同じようなものです」
　俺の苦笑に応えるようにあげはちゃんも苦笑いしつつ報告する。
　出会った頃に比べるとちょっと変わったな、と思う。
　ん？変わっただけか？少し……
「強いて言えば、明日がちょっとしたイベントだって事ですけど……そうだ」
　彼女は手に持っていた紙袋から、小さな包みを二つとリ出す。
「一日早いですけど、良かったら貰ってください」
　包みを一つずつ俺達に手渡す。中身はチョコレートだった。
「ほーぅ、こいつは嬉しいね！男としては女の子から貰えるものは天の施しに等しいからな！」
　ガハハハハハハ！と思わず大口を開けて笑った。
　そして調子に乗って、かるーく小粋な冗談を。
「まさか、俺様に惚れたりしちゃったかな？はっはっはっはっはっ」
「いえ、いつもお世話になってるのでそのお礼です」

　キッパリと最高の笑顔で……。

　……グサッ……

「……ぃぇ…ぃぇだって…ぅう…」
　まさか小粋な冗談のつもりが俺の心をゲイ・ボルグするなんて……
　あー、、、空が白い…。
「チョコレートか。……そういえばこの時期になるとよく貰っていたな」
「えっ、シンシアさんは貰うほうだったんですか……？」
「ああ、息抜きになるからと交換会のようなものがあってな。私はいつもチョコクッキーを作っていたが」
「あぁ、なるほど交換会ですか、シンシアさんのクッキーかぁ……おいしそうです」
「そのうちまた作りたいな。最近はなかなか時間がなくて作っていない」
「あ、その時は手伝わせてください！私、一度作ってみたかったんですっ……ぁ」
　あげはちゃんが珍しく身を乗り出して、手元の袋から三つ目のチョコが零れ落ちて、慌てて拾う。
　俺達のとは違いちょっと小洒落た包装の……
「そ、それはまさか…」
「ん、それだけ包装が違うのか」
「やめろぉ！シアたん現実を直視させるなぁッ」
「え、えっと、これは、その……」
　困ったように瞳を泳がせて、挙句、
「あ、あの、私、ちょっと気分が悪いので、先に休みますねっ！」
　といって、脱兎のごとく走る去る後ろ姿に…
　俺は何か達観したように天井を見て
「いつか、お兄ちゃんにその人を紹介するんだぞ…」
　何故か全身から力が抜けた。
　妹にいつの間にか男がいて先をいかれたかのようなそんな気分。
OTZ

この日一人の男が敗北した。勝者はいないが砕け散った心が癒えるまでは時間を要することだろう。
男の歴史にまた１頁