ENo.597 霜月銀華

続・日記のようなもの

12日目ーこっから多分本編だな。さっき死ねとか言ってゴメンゴ☆そんな事言うつもり毛頭無かったから許してね☆
ちなみに12日目はなんもしてないよ！アセリナとイヤスから返事貰っただけだから！つーわけで次だ次！
さー恐怖の13日目は金曜日！たぶん！
この日は純黒姉ちゃんにお礼言われた日だな、流石に武器になるような食い物はパスだぜ！マズそう！
後戦闘でなんか女の子の人形！女の子結構好きだけど人形こええ！二度と関わりたくねぇ！勘弁してくれや！
んでもってリボンげっと。え、何これ怖い。呪いとかかかってそう。コワイ
14日目！！これが4日前かー、いやー時間が過ぎるのはええな！さっきおっそいとか言ってた気もするけど気にすんな！
ハゲるぞ！シワ増えんぞ！ホモになるぞ！根拠は無い！
ファナって子に武器作ってもらってーそんな感じ。なんもねーぞ！
というかなんかあっても困るぞ。
それと紅マグロ君とファイファーに付加合成してやってこの日は終わりだな。フェウにお菓子渡したし終わりだ終わりー

――――――――――――14日目まで、終――――――――――――――

EBに表示されている現在時刻は既に2時を回ろうとしている
銀華はちらと見て確認した後、それを鞘の収納ケースに入れた
「さて…日記もこの辺にしておいて…っと」
適当な紙片に書き記しておいたものを日記に書き込み、パタンと日記を閉じてから鞘の中へと放り込む
様々な物がごちゃっとしていた鞘の中は街から街への道中で物も少なくスッキリとしている
逆にスッキリし過ぎて食べ物すら無い、あるのは武器と服と日記。それと召喚用の道具が1つ2つとあるだけ
残っていた2つの酒瓶のうちの1つを取り出し魔方陣を描き出す、と言っても。
使用したモノが酒のために細かく魔方陣は書けないので簡易的なものだが
酒を垂らして染み込んだ地面が青白く光を放ち始める、最後に円を閉じると青白い光は大きく発光した後にちろちろと黒い焔が吹き出している
「…始めるか」
手を前に持ってきて、右手を一関節分ずらしてから柏手を打つ
いつも着ている上着は鞘に掛けていて今は着ていないので夜に流れる風が心地良い
月は若干雲で隠れてはいるものの魔方陣の光と同じ青白い光を放ち、周囲は手元が分かる程度には明るい
陣の中心に作りためておいた勾玉を3つ置いて魔方陣の前へと歩を進める
体調もいつも通りでほぼ良好と言って差し支え無いだろう、『副作用』はともかくとしても術式の起動自体は問題なく出来るはず

そう考えてから、考える頭を目の前の魔方陣の方へ向けた
「ま、成功はさせる。問題はない…考える前に実行ってさっき言ったばっかだろうが」
目を瞑り、雪の事だけを考える。スーッと大きく息を吸い込み深呼吸をする
「…術式起動。」

ブワッと魔方陣から風の奔流が溢れだし、周囲の木々のざわめきが大きくなる
青白い光は翡翠色へと変わりもはや仄かと言うには無理のある光量が溢れているがまだ術式の安定の為にここで気を抜くことは出来なかった

「第2機関起動…」

発言と同時に魔方陣の放つ色は翡翠から橙色へと変わり、光量がやや抑えられる。
風の奔流は未だ溢れ続けるばかりで止む気配はまだまだ無い
魔方陣から放たれる光は変われども黒い焔は一切の変わりはなく、ちろちろと燃えている
風の流れが若干収まっているのを肌で感じてから次の『言霊』を放つ

『第3式機構起動、第1、第2予備動力を使用。その後第4式機関を始動』

陣の中央に配置しておいた勾玉の一つが音を立て砕け散り、溢れた焔が陣の線が引かれていない部分へと流れこむ
流れこむと同時に風の奔流がほぼ止まり元の心地良い風となる
流れ込み、魔方陣の円内全てが橙色に染まりきるともう一つの勾玉が音もなく溶けていく
溶け出した勾玉に反応するように黒い焔と混ざり合い、蒼色へと変わっていく
蒼に染まったその魔方陣にしゃがみこんで手を当て最後の行程へと手順を進める
冷や汗一つも無く順調に事は進んでいるものの悲しいかな、順調に進んでいる時ほど先が怖くなってくるものなのだ
しかしここで絶対に失敗とするわけにはいかない、失敗を考えかけた瞬間に次の行程の為の動作を確認する
蒼い魔方陣は深海の如く不気味でいてどこか落ち着くような色を湛えている
冷静な目で見ても一点のミスも見られない、問題なく次の行程に進めるだろうと考え次の行程へ進める
手を魔方陣へ当てた状態で最後の『言霊』を放つ

『心核起動』

言い放つと同時に最後の勾玉がガラスが割れるような音とともに砕け散り、銀色の全く違う魔方陣へと様変わりする
風は若干強くなり髪が風に靡く程度の強さへ変わっていき
魔方陣がだんだん狭まっていき最後に消えるくらいに小さい円となった瞬間に眩い光を放った

「うっお…！？」

眩しすぎて瞼を開けることが困難になり、たまらず目を瞑る。
体感10秒もいっては無いものの数秒間は光が凄すぎて光が止んだあとも暫くは前が眩んで思わず手を頭に当てた

「あー…成功…かな？」

風は魔方陣を起動する前の様に穏やかな風となっていて、月明かりは変わらず青白い光を放つ
何かいつもと微妙に違うようなおかしな違和感はあったものの
特におかしい点も無くああ、良かった良かった。とばかりに上着を羽織った時に『ソレ』に気づいた

…気づいてしまった。

羽織った上着の前を締めようと手をかけたところで胸のあたりに奇妙な違和感を感じ
胸を手でぽんぽんと触ってみる。そうしてみると普通の男性にはあるはずの無い物があった
…男には無いはずの柔らかさが

「…あれ？」

ダラダラと冷や汗が垂れてくるがとにかく落ち着け、落ち着くんだと深呼吸をする
COOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOLになるんだと心頭滅却する
しかしコレはもう経験済み、とにもかくにも上着を着る。若干胸が苦しい…それなりにあるのか、自分ながら恐ろしい
ちなみに自分は貧乳派であり断じて巨乳が好きではないのだ。断じて。断じて！！
当然ながら流れるようにシモも確認したものの当然無い、言わせんな恥ずかしい

「…はぁ、結局こうなるのね…」

とほほとなりながらも既に経験済みの事例になってくれたのはまだ良かったかも知れない
これが万が一にも人外とか亜人とかになってたりしたらもうどうすれば良かったのかは検討もつけられない
というかそんなに冷静でいられないし、いられる余裕も無い
今も割と動揺はしているのだ、もう既に慣れたものではある…というか慣れてしまっている自分が少し涙目なのだが
逆にこの世界、慣れなかったらおちおち戦闘も出来やしない
仲間ですら雀牌で無機物なのに喋れているという事実がある分余計その事が実感できる
というかもう人形までが喋ってくるから性質が悪い

「ああ、もう…面倒くさい…」
「でもこれで不細工だったらちょっと目も当てられないな…鏡とか無かったっけ鏡…ないっけ」
ガサゴソと鞘の収納スペースを探ってみるもスッキリし過ぎなその中身はパッと見ただけでもそんなもの
ありゃせんよ、と教えてくれる
「まぁ良いや…」
さっきの魔方陣のために使い切った酒瓶は水気を飛ばして容れ物代わりに持っておく
酒以外にも普通の飲料水なんかは持っておかないとこの世界では死亡フラグを常時乱立させるようなものだ
最悪食料はそこらの得体の知れないタコやらわかめやらを捕れば問題ない
というか鷹が居るのでまったく問題ないと言えば問題ない
最終手段としては他人に分けてもらうしかないのだが…
しかし最近はお菓子のようなものばかりで味覚を満たせても腹はそうそう膨らまない。
量があるわけでも無いのでよく噛んで噛みまくって無理やり満腹中枢を満たすしかない
そろそろ肉とか食べたいのが本音である。
「まぁともあれ成功したは成功したみたいだ、試しに使ってみたプログラムを言霊で省略も出来てるみたいだしやりたかった事はやれたかな」
「もっと言うならこの副作用もどうにかしたかったけど…この術式滅茶苦茶消費するから自前のだけだと発動出来ないんだよね」
「どの程度が最低限必要なのかのラインも解らないから大目に使うしかない。で、多かった分が反動としてこっちにくると…」
「溢れた分の力が消耗しきってるこっちに流れ込んで回復して終了…ってんならまぁ納得も出来るんだが…」
「なんでこうなるんだか…」
ぽりぽりと頬をかき、性転換してしまった身体をまじまじと見る
「うーん…若干声高い？それとちょっと目線低い…あとなんか全体的に筋肉が落ちてる気がする。」
背中を見てみたり手の感触を確かめてみたり体操してみたりして分かったことはひとつ
「うん、これすっごい女の子の体だわ」
当然と言えば当然なのだがせっかくだし再確認してみる。少しだけ現実を忘れたかっただけかもしれない
「やー、でもこれって色々危ないよね。万が一デュエルで負けたりしたら男の状態で負けるより酷い目にあいそう」
そう考えるとなんだか唐突に嫌な予感もしてきた、凄く今更なのだけれど
「うん…それは不味い、それは不味いよ自分。男なのに、そんな事されたら…一生お嫁に…じゃなかった。お婿に行けないよ？」
「というかこの状態、前回の時みたいにちゃんと戻るよね？戻るハズだよね？今回はそんな甘くないよ？とかそんな非道な事にはならないよね？」
誰に話しかけるでもなく自問自答を繰り返してみる。もちろんの事だが正しい答えなど分かるはずもなく
「…しばらくは街の近くでおとなしくしてようかなぁ…」
泣きそうになりつつもそんな答えにたどり着く。何故か体が熱い。変化したばかりの副作用だろか
等と考え始めたのだが考え始めたら眠れなくなってしまう。
流石に完全に徹夜してまで無茶して片付く様な楽な事でもないので
「もういいや、疲れた…」
面倒になってきたので、後のことは起きた時に考えることにしてもう寝ることにした。時刻は3時を少し回っている。

寝ようと思っていた矢先にどこからか吹き飛ばされてきたゴリラがいた
周辺を探るような仕草が見え、こちらへ向かって来たので渾身の力で吹き飛ばしておいた
余計に疲れたがよく眠れそうだ…ぐぅ

――――――――――――――――

例え何であろうと受け入れよう
悲しかろうが、嬉しかろうが、過ぎた事は過ぎた事でしかないのだ
当たり前であるが故に、受け入れがたいのだ。
しかしてそれが出来るのならば既に人では無いのかも知れない
…当たり前だと云うにも関わらず。