ENo.506 Toy store

*つながりのはなし*

その日”エミリー”がわたしの管轄区に帰って来た。

帰って来たと言っても、休みの時間を
割いてわたしに会いに来てくれたのだ。所謂一時帰宅
と言って良いのか、兎に角彼女は第一声「ただいま」と
言ったので帰って来たと思うのが適切だろう。

久しぶりに見た彼女は本の少しであるがやつれていて、痛々しく感じた。
どうしたのだろうか、仕事が上手くいかないのか、何かあったのか。
わたしはそう考えながら彼女の好きだった特製ジュースとビスケットを
無機質な椅子に座る彼女の前に差し出すと、有難うと笑い紙コップを両手で包んだ

わたしは彼女のその憔悴とした様子に”不安”を覚え
どうしたのか、何かあったのか、ゆっくりと彼女に聞くと頭を小さく振り
「何もない」と言った。

それから彼女は自分の話をするでなくわたしから最近はどんなことがあったかを
聞くばかりで、
明らかに自分の話は今したくない、と態度で言っていたのでわたしは彼女の
意向に従う事にした。

そして二時間程度経過した頃か、そろそろ帰らないと。と
彼女は食べ残したビスケットを手に取り、持って行って良い？と
聞いたのでわたしは頷いてどうぞと微笑んだ。
すると彼女も応えるように微笑み、ハンカチに包んでビスケットをポケットにしまった。
ポケットから手を出すと、其処には手紙が握られていてそれをわたしに差し出し

「これ、ブレインに読んでもらいたくて。御免なさいね、私自分が思っている事や
そういうものを上手くまとめて言葉に出すのが苦手で…手紙でならきちんと伝えられる気がするの。」

と言ったので、私は差し出された手紙を受け取り頷きこの後直に拝見させて頂きますと
返答をして彼女と別れた。

彼女が此処を離れて直、わたしは言葉通り手紙の封を開け、中を読むと
内容は彼女が今抱えている様々な悩みが詰め込まれたものだった。
それは主に周りの大人達に対するもので、何をされる訳ではないけれど、
何もしない、にこにこと笑っている大人達の事が不気味であるというのだ。
確かにこの施設の大人は愛想が良い、しかしそれは悪い事ではない。
多分、所謂大人や社会に溶け込む為に活用される”愛想笑い”というものが
彼女は苦手なのだろう。直情的な彼女らしいと読み進め、
手紙の最後にはこう書かれていた

「それにしても、私たちが今している作業は一体何なのだろう」

わたしはこの一文を見て、自分の中にあるデータベースから”エミリー”の
データを取り出し、所属を見ると「第６地区地下五階＊＊＊＊＊所」と書かれていて
そこには”エミリー”と同じく此処を巣立った子供達の名前もある場所だった。

自分のデータベースにある地図にはここ数年、彼女らが卒業して行く
１・２年程前に完成された場所だった筈。

詳細な内容は登録されていなかったので、わたしは今度施設長に聞いてみようと思った。

*かえすはなし*

髪の長い男の言葉を思い浮かべながら
眼帯の男は近くの街に足を運んだ。

足取りに迷い無く向かった先は初めにプレゼントをどうするかと
ぶらぶらした時見かけた雑貨店だ。

多分、所謂「女性ウケ」するような店だろうとぼんやり思った場所だ。
ヒョーゴとかが行きそう、と言ったら良いのか。

その店に入ると、幾ら自分が甘い物が好きと言っても
余りにも人工的で、胃がもたれそうな品が余り感じられない
甘ったるい匂いがした店内に、少し心が折れそうになったが
眼帯の男はさっさと選んで出てしまえば良いだろう。と思いなおし
店内を物色する事にした。

見ると矢張り女性向けと思われる雑貨が多く、さてどうしたものかと
早速悩む羽目になる。同じ様なものという事で二人とも使うものが良いだろう、
今思えば、確かに久しぶりに会ったヒョーゴは靴にナナの抜け毛(羽根)を
付けていたし、二人とも耳に同じアクセサリを付けて二人とも同じ
音楽隊のようなものに入っていた。成る程納得と言わんばかりの同じっぷりだ。
髪の長い男の言葉に改めて納得していると男の目線よりも少し低い位置に
瓶に入ったリボンの束が見えた

それを手にとって見ると瓶は見た目よりも軽く、コンパクトなものだった。
中に入っているリボンも丁寧に巻かれていて質は良いものなようで布地の表面が
光を反射して優しく煌いていた。

それをぼんやりと見ながらヒョーゴはよく髪の毛をリボン等で飾っているし
ナナも前に自分があげたものを身に付けたりして飾っている。
それとあいつは確かそういうものを沢山持っていたような気がするので
これならきっと二人とも使うだろうと納得しそれを２つ持ち、会計へと足を向けた

自分が貰った分、相手に返せる物になれば良いと思いながら。

***

買い物を終え、部屋に帰る途中学ランの男は獣臭いものから
何か箱を受け取りながら笑顔で頭を下げていた。
磯臭い生き物は、貰ったチョコレートを吸収後、
緑色になった身体を見て「ハルク！わたくし今超ハルク！！」と
テンション爆上がりで腕に力瘤を作ってオカシな女とロビーで
騒ぎまわっているのを眼帯の男は見た。