ENo.506 Toy store

*生まれた時のはなし*

http://www7b.biglobe.ne.jp/~hw1031/sl/diary/c_dy13.html

*根本が理解されていないはなし*

未だに事態を把握し切れていないが、俺は大熊猫の連れに一本釣りされて此処に来たのだ。
しかも其処には前に旅先で暫くの間共に仕事をした仲間が揃い踏み、若干成長している者や
全く変わっていない者、変わっているのか判別不可能な者と様々だったが皆元気そうで何よりだった。

ここに来てから３日目の事。
何となく、ずっと引篭もって本を眺めているのもアレなので
今日はこの周辺の街を探索して回るかぶらぶらするかと
考えながら玩具屋の外にあった木の下、毛玉と一緒にぼんやりとしていた。

そうしているとナナがやってきて唐突に

「おいちょっと甘味配布イベントがあるから顔をかすのだ。」

と言われたので俺は思わず

「なん…だと…」

何の意味も無いが衝撃に満ちた言葉を吐いた。
いや、意味はあったのだ。そんな美味しいイベントが都合よく存在するのかと。
自分は甘い物に目が無いので、そんなイベントがあるなら
行ってみるしかないだろう、とナナの言葉に
自分の膝で寛いでいた毛玉と共にホイホイとついて行く事にした。

********

時間はまだ昼前で、若干の眠気を感じながらナナの後ろをついて行く。
時折周りの風景を見渡し、何処ら辺かを考えていたが段々と人が増えてきた気がした。
というか、野郎が多い。不思議な程に。そう考えているとナナが
目的地についたと言ったので前を見る。

……うん、女もいるが男の方が圧倒的に多い。
此処が甘味配布イベント会場だとしたら、凄く意外だ。

「この世界は糖分に興味ある人間が多いっていうか野郎多いなおい」

思わずそう言うと、ナナも同意した。
矢張り皆そう思うのか、まぁ、普段甘味が好きな男は余り見ないので
女ばっかの場に自分がぽつんとしているよりか万倍良いから構わないのだが。
そうぼやっと辺りを見ていると、唐突に

「カツオ！ステイ！！」

と横に立っていたナナが言ってきたので

「あ、はい。」

思わず俺は素直に頷いた、が、俺は犬か何かか。
下を見ると足元に居た毛玉もステイしていたので犬なのかもしれない。
いや待て馬鹿を言うな違う。

そんな事を考えているとナナは良い子、と更にペットのように自分に言って
どこかへ駆けて行った。

いや俺ペット違うし、と言いたくなったが既に相手は消えていたし
まぁ良いか、と気にする事でもなかった。

-----------------------------

ナナが何処かへと駆けて行ったので、とりあえず待っていれば良いのだろう。と
思いながらぼあっとしていると、唐突に大きな音が聞こえた。
いや、音というか音楽か。何事だと思ってその方向を見ると様々な虹彩の照明が灯っており、
先ほどまで其処に居た人間が歓声を上げてそちらを見ている。
何か始まるのか、と足元に居た毛玉が器用に自分を駆け上がり、頭のてっぺんまで辿り着くと
そこを腰掛にして音のする方向を注視している。
こいつアクティブだなぁ、と頭部に重みを感じながらぼんやり思っていたが今度は音と共に
歌声までも聞こえてきた。その歌声の方向を見ると何人かの人間が歌っていて、
その中に見知った顔があった。
先程人にステイと言って何処かへ言った奴、ナナだ。
それと隣にはヒョーゴも居る、ヒョーゴは普段からは想像も出来ない程に薄着をしていて、
昔はあんなに薄着に発狂していたのにおかーさん成長したヒョーゴちゃんが見れて嬉しいわ何て
擬似母親ごっこ的な事を考えたが後で本人に会った時褒めておこうとも思った。
引っ込み思案な所があった奴が少しでもオープンになれてたっつのは凄い事だ。
そう思いながら暫く歌を聞いていて、俺は漸く納得した。

成程、これ音楽会か？

音楽会に甘味配布イベントがついているのか、甘味配布イベントに音楽会がついてるのか
よく解らないが、自分がいた場所では全く聞いたことが無い曲調と言うか、
複数の楽器音がする音楽は大体歌声なしの器楽曲しか聞いた事がなく、
声楽曲は大抵街中とかで詩人が弾き語りをする程度しかなかったので新鮮だった。
しかし新鮮すぎで余りよく解らなかったが、一つ納得した事と言えば
前にナナが囀りで歌っていたのを聞いた事があったが、
今聞いても矢張り歌が上手いという事だった。

********

歌が終わり少しすると、今度は歌っていた人間が甘味の配布を始めた。
矢張りわからん。音楽会に甘味配布イベントがついているのか
甘味配布イベントに音楽会がついてるのか…とりあえずその配布の列に並んで
甘味を貰おうと順番を待っていると、丁度ナナにそれを貰う形になった。
始め手を出されて、何だ。と思ったがそういえばさっきから並んでいる人間は握手してもらってたな、と
気付いて握手をし、甘味を頂いた。握手は儀式か何かか。
知り合いと何の意味も無く握手って不思議な気持ちになるな、と考えているとナナが

「それ食って待ってるのだ。他に渡したいものがあるから。」

と言ったので頷いて待つ事にした。

---

受け取った甘味の中身はチョコレートで、そう言えばこの時期
前も皆で居た頃似た様なイベントなかったか…と考えながら
それを食べていると漸くナナが現れた。
現れた相手に俺は行き成り始まった音楽会に驚き、何が何やらわからんかった、と
素直に告げると相手も納得しているようだった。コノヤロウ。
それはまぁ兎に角、音楽会で歌っていた歌は上手かったので俺は素直に相手を褒める事にした。

「お前歌本当上手いなー」

「そうか！」

褒めたらどや顔で応えてきた、こいつマジで変わらねぇな。と思いつつ頭を撫でてやると
撫でている手に頭を摺り寄せてきた。うん、全く変わってない。
そう一人納得しているとナナがはたと気付いた様に

「あ、忘れるところだったのだ。」

と呟いたので、俺は何事だろうか。と思いながら相手の様子を見ていると、小さな箱を差し出してきて

「バレンタインだからくれてやるのだ！」

屈託の無い笑みを浮かべながら言ってきた、バレンタイン…あれ、何か聞いた事なあるな。

「……ああ！今日ってもしかしてチョコ貰える日か！！！」

受け取りながら、思わず言った。
前の時、ナナやヒョーゴやカムイがチョコケーキやら何やら作っていた気がする。
その時も理由もなくチョコが貰える何てすげぇ良い日があるもんだなと思ったがきっとそれなのだろう。
俺本当すぐ忘れるな、としみじみしていると毛玉にも何か用意していたのか
ナナが毛玉に骨を差し出していた。
毛玉は差し出された骨を見るやいなやガッチリとそれを銜え、若干興奮しているのか
唸り声を上げながら骨に齧りついている。お前は少し落ち着いたほうが良い。
テンション爆上がりの毛玉を見ながらそう思っていると髪を引っ張られ

「それとだなちょっとしゃがむのだ。」

「あん？」

言われて首を捻りながらも、とりあえずその通りしゃがむ。
するとどこかに持っていたのか、布地の何かを俺につけようとしている。
首に巻かれて漸く俺は気付いた、マフラーだ。

「クリスマス用に君にも作っていたんだがバレンタインになってしまったな。」

それは紐を釦で引っ掛ける物で、片腕しかない自分には楽で有難いものだった。

「へぇ…これ作ったのか、前々から解っては居たがマジで器用だなお前。
有難う…ってか何か色々貰いっぱで悪いなぁ…今度何か考えるわ。」

こんな物は自分はどうやっても作れないので、素直に感心しながら礼を言うが
物凄い自分の立場の無さにも気付いた。
有難いのは本当なのだが、物をあげるイベント？とは言え
貰ってばかりと言うのは物凄く気持ちが悪い。
かと言って今自分に返せるものは無いので後日何か考えようと自分の中で決めた。
今は自分が面倒を見ているので、毛玉が齧っている骨も込みで返した方が良いだろう。
一人納得するとナナは笑いながら手を差し伸べ

「さ、帰ろう。遅くなってしまう。」

と言ってきたので俺はそう言えばと暗くなり始めた周りに気付き、「ああ、そうだな。」と
頷き答え、差し伸べられた手を取り
そう言えばナナは鳥目で暗い所が苦手だったのだったか。
じゃあナナの同行者達が居る場所まで送ったほうが良いだろうと考えながら足を進めた。

-美味しく頂きました-
http://file.sil.3rin.net/14vd.jpg