ENo.3093 ルビー・ダッシュウッド

・・・・・こんにちは、ルビーです。
生きてます。割とギリギリですけど。

前回は日記が書けませんでした。
・・・・生きてるのが自分でもビックリなくらいなので。

あのあと、妖精さんと戦いになりました。
・・・いえ、戦いなんて呼べたものではありませんでしたが。

私は、力なら負けない筈でした。
ですが、とても強い魔力や、見たことも無い魔法、目にも止まらない動きの前に、私は為す術もなくただ一方的にやられただけです。

・・・情けないです。
・・・・・こんな力で、ご主人様を守れると思っていたなんて。

なんとか生きて逃げることが出来ました・・・・・
ですが、私はとても深い傷を負いました。
血が流れ出て、身体が冷たくなっていくのをハッキリと感じました。

木の幹に寄り掛かって、私はひどく痛む傷口を強く抑えます。
・・・血は止まる気配を見せません。
心臓は不規則に脈打って、何とか血液を送り出そうとしています。

・・・・身体が、重いです。
いつもの力も、もう残ってはいません。
足の力が抜けて行くのを感じます。

それでも一歩を踏み出そうとした足は、木の根に捕らわれ、私は地に身体を打ち付けました。

・・・・起き上がることは、できませんでした。

目の前が真っ暗に、頭の中が真っ白になって。
怖いことや、痛いことも分からなくなって。
自分がどこに居るのかも分からなくて。

何も聞こえない。
何も見えない。
何も感じない。

・・・・あ・・・・私・・・・・死ぬんだ・・・・。
こんなところで・・・、誰にも看取られずに・・・・。
もっと痛くて・・・怖いのかな・・・って、思ってた・・・・けど・・・。
そんなでも・・・ないですね・・・・。

藻掻く事を諦めれば、意識がどこか深い所へと沈んで行きます。
・・・静かに・・・水底へと浮かび上がるように。

・・・・・・さいごに・・・もっとおいしいごはんが食べたかったですね・・・・。
お歌も、もっとじょうずに歌えるように・・・・なりたかったなぁ・・・・。
・・・・できれば・・・・やわらかいベッドの上がよかったです・・・・。
・・・・それと・・・・。

最期の最後、意識が沈み切る直前。
目も見えず、耳も聞こえず、肌に感じる筈の痛みさえも失った私が
ただ唯一微かに・・・本当に微かに感じた物がありました。

・・・・それは匂いでした。
すぐ近くから漂ってきます。
懐かしい匂いです。
とてもとても、安心する匂いです・・・。

私は、もう殆ど消えかかっている心で、その匂いが、私の首元から出ている物だと気付きました。
・・・・私の首に、いつもいつも掛かっているもの。
・・・・・・ずっと昔、私の大事なひとに貰った、私の居場所を示す証・・・・・。

・・・・・・・・・くびわ・・・・・・・・・・。

・・・・・ごしゅじんさまに・・・・もらった・・・・。

・・・・・ごしゅじんさまの・・・においのする・・・・・くびわ・・・・・。

・・・・・・ごしゅじんさま・・・・・・。

・・・・会いたい・・・・。

・・・・・まだ・・・・・。

Continue?

─────死にたくない─────

急に世界に、音が戻ります。
血を失って殆ど止まり掛けていた心臓が、大きくドクンと脈打つ音が聞こえます。
真っ暗だった私の視界に、微かに光が戻ります。
森の切れ目から、光が差し込みます。

・・・・・こんな所で・・・・・
・・・・・ご主人様にも会えず・・・・一人ぼっちで・・・・・
・・・・・・・・何も出来ないまま・・・・何も残せないまま・・・・・・・

Are you sure?

死ぬ訳にはいかないんですッ！！

全身に感覚が戻ります。
それと同時に、消え失せていた激痛が私を襲います。

・・・・・がッ・・・・・・ぎ・・・っ・・・・！
・・・げほっ、ごぼっ・・・

私は血の塊を吐き出し、歯を食い縛って痛みに耐えます。
真っ暗だった目の前が真っ赤に染まります。

何がやわらかいベッドですか。
ご主人様に会えるなら、二度と歌を歌えなくたっていいです。
おいしくないご飯だって我慢します。

それでも私は

Okey， you extended!!

死ぬときはご主人様の腕の中でって決めてるんですよっ！！！

必死の力で私は身体を地面から離します。
足はまだ動くようです。

街の方向は分かります。

大丈夫、まだ、歩けます。