ENo.2874 茜

「…………また生き残ってしまったか」

レイジングストームの実験で盛大に自爆した後。

くりおねをぶん殴ったところまで記憶にある。という事は、そこから気を失ったようだ。外は日が地平線から顔を覗かせているところ。朝の様である。服がボロボロで泥と血で酷い有様なのが、かなりの重傷だった事を物語っている。

まぁ、そんな事より腹が減ったわけだが。

「うん。…飯でも獲ってくるか」

「おーい。鹿みたいなの獲ってきたぞー」

くりおねに声をかけたらゲェ！って感じの顔をされた。朝っぱらから失礼な。

「茜ちゃん……、体は大丈夫なの？」

「だいぶ寝てたみたいだからな。大体治った」

今度は、フーやれやれだぜ…って感じの顔をされた。朝っぱらから失礼な。

そういうくりおねも、ハート様が粉々になるくらいのパンチ受けているハズだが。お互い様である。

そこに現れたこよみも、眉間にシワを寄せ、有り得ん！と言いたそうな顔をしている。

「……ワシの見立てでは全身打撲で全治１ヶ月のハズだったんだが」

一晩寝れば治ると言っているに。コイツらはもうまるで人を化物みたいに言いよって。

「そもそもアレだけの衝撃を受けて骨の一つも折れていなかった事自体……ブツブツ」

「ハイハイ、俺は体が丈夫なの。御老体や血圧低い死人と一緒にしないで頂こうか」

「誰が御老体じゃ。体だけは若いわ！」

反論の無い死人はまだ布団の中で安らかに眠っている。この伊吹君死んでるんだぜ。

鹿っぽい獣を捌いてる途中、何か肉の色が変な部分を見つけた。何というか。サツマイモのような黄色に薄らと染まっている様な。よく見ると、捌き終わってどかしておいた肉にも変な色が見られる。最初はこんな事なかったのに。

「んー。こよみさーん。年の功をお借りして宜しいかしら？」

「年寄りネタも大概にせい」

そう言いながらもきっと面白い何かがあったのだろうと、俺の捌いている肉を見に来た。

「何かよぉ。肉が変な色になっていくんだよ。これどう思う？」

「ふむ」と懐からピンセットを取り出し、変色した肉をチクチクし始める。四次元白衣から次々と試薬と試験管を取り出し、原因解明に勤しむ姿にこの人も科学者としてはマトモなんだなぁ、と安心させられた。

「うむ、この肉は微弱な毒に侵されておる」

うわー。何か色合い的に予想は出来てたんだが、そうなるか…。

「マジかー…。めっちゃ触っちゃったんだが」

これから我が身に起こる災難を想像し気が滅入る。
が、なぜかこよみは「安心せい」と胸を張る。

「茜よ、お主なら大丈夫じゃ。何故なら毒化の原因はお主自身にあるからのぉ」

「はい？」

思わず目が点になる。まさか…。

「やはり精神に合わせて体も老いて」

「無いわ！　まぁ実を言うとだな、お主が昏睡している間に少し体を調べさせてもらったんだが…」

「…いや、そんな変質者を見るような目をするでない」

「俺の体……ヒドイっ！」

面倒くさそうな顔のこよみと、よしキタと息巻くくりおね。ひとしきりギャーギャー騒いだあと、何故か俺とくりおねは正座させられていた。何この展開。

「とにかく話を聞けい。お主の体が常人より異常に頑丈なのはすぐわかった。そこでだ。こっそり我が秘伝の薬学の粋を結集した丹を埋め込ませてもらったのだが…」

「…いや、そんな焦点の合ってない澱んだ目をするでない」

「待て。黙ってやったのは悪かったと思う。だが了承を得てからだと拒否され…」

ぎにゃぁあぁぁーーー………

「もう嫁に行けねー。毒人間にされちゃったよー…」

我が身に起こった事実に体育座りがしっくりフィット。
今回は流石に堪えた。しばらくぶりに涙が出そうである。

「痛っ…つぅ…！何つぅ馬鹿力じゃ。ワシの叡智の詰まった脳が握り潰されるかと思った」

頭を押さえ呻くこよみ。本当に砕く寸前で思いとどまった。よく耐えた、俺。

「丹は後から取り出せるから大丈夫だと。今はまだ力を制御できず、毒が無意識に溢れてしまっとるようじゃ。なに、ワシの言う通りに鍛錬すれば、毒が漏れることもなくなるわい」

チクショウ、本当だろうな…？
この前、こよみの操る化学の力が欲しいと言ったのを思い出して、ついサプライズも兼ねやらかしてしまったらしいのだが。今度一般常識というものをくりおねと一緒に学んでもらう事にしようかしら。

「うん。毒…、化学の力ね」

俺は指先にそれとなく意識を集中させた。そこはかとなく、指から何か飛ばせそうな気がした。

ふむ。これはもしや…。

「ポイズンバレット！」

　ぴ　ぴ　ぴ　ぴ　ぴ

「キャー！」

指先から米粒みたいな毒弾を飛ばしてみた。……少し楽しいかもしれない。

「ちょっとぉ！それ毒でしょ！？何考えて」

　ぴ　ぴ　ぴ　ぴ　ぴ

「キャーーーー！」

振り向いてこよみにも撃ってみた。

　ぴ　ぴ　ぴ　ぴ　ぴ

「こ…こら！　年寄りはいたわら…ッ、止めい！」

「大丈夫だって。少し肌の色がサツマイモ色になるだけだって！たぶん」

　ぴ　ぴ　ぴ　ぴ　ぴ　ぴ　ぴ　ぴ　ぴ　ぴ

　【茜は科学を開花した】