ENo.253 柚木谷苺

＋昔の思い出＋

「悪いけど別れて？」
「……なんで？」
「お前思ってたより真面目ちゃんすぎてさ、一緒にいて疲れるんだよ」
「ふーん。そっか、わかった、ばいばい」
「……あと冷めすぎ。じゃあな」

振り返りもせず、歩き去って行った『元』彼。
告白された勢いで付き合った関係だったから、別に未練はなかった。
名前も呼ばせなかったしね。
でも、自分でも気づかないほど、言われたことは深い『傷』になってるみたいだった。

たまに、今でも、夢に見るほどには。

それでも、誤解されるような恰好や行動をやめなかったのは私だった。
好きな恰好くらいさせろよ、って思いながら。誤解すんのはそっちじゃん、とか。
周りの性格に合わせられる程度には変わったと思うけど。

☆

「……って、さー。大きなお世話と思わない？」
「苺の外見で告白してきた奴なんでしょ？最初から中身見てない奴に言われてもね」
「でしょ？でしょ！！」

わたしは従兄妹の孝義（たかよし）お兄ちゃんに愚痴りに行った。
お父さんの妹（つまり叔母さん）の子供で、妹分＆弟分の黒江ちゃんと雅彦くんの兄で、葉と同い年。
わたしにとって、一番近い人。……葉にとっても、みたいだけど。
今、わたしの事を名前で呼ぶことを許してる、数少ない人でもある。
（黒江ちゃんと雅彦君にもOK出してるんだけど、ゆずの方が気に入ってるみたい）

「でも、勢いでOKした苺も苺だよ」
「うぐ……」

どんな時でも、強い感情移入はせず、あくまで第三者・中立の位置に立つのがお兄ちゃん。
絶対にわたしより孝義お兄ちゃんの方が真面目だよ、ガッチガチだよ。

「ちゃんと好きになれそうだと思えたらOKしなよ。ね？」
「……ん」
「葉も心配してたよ」
「えっ言ってないのに……！？あいつどっから知るの……っ」

相変わらず葉を毛嫌いしてるわたしを見て、困ったような笑顔を浮かべながら、くしゃっと頭を撫でられる。
瞬間、心臓が飛び跳ねた。顔には根性で出さなかったけど。

いつもお兄ちゃんは、愚痴を言いに行くと、最後にはこうやって撫でてくる。
小さい頃から安心させようとする時には、頭を撫でるのがいいと思ってるみたい。
でも、これは、わたしにとっては、苦しい。

だって、孝義お兄ちゃんの事、好きだったから。

『だった』、です。今もじゃないです。（……って誰に対する言い訳なんだか……）
いつから好きだったとか覚えてない。
従兄妹で、近くに住んでて、よく遊んでくれてた。それだけだと思う。
昔はひたすらお兄ちゃんに引っ付いてた。でも成長するにつれて、これじゃダメだと思った。
もう一人の妹と思ってくれてるお兄ちゃんに対して、失礼だと思った。

今は、純粋に、真面目でまっすぐで、誰にでも優しいところに憧れてる。
それでもやっぱり、触れられることは緊張する。
仕方ないよね……？
初恋の人に触れられて、何とも思わないわけがないじゃない……

「……ご、苺？」
「んっえっなに？」
「夕飯うちで食べてく？って聞いてたんだけど……」
「ぁ、あー……いいや、帰るよ。戻るって言っちゃったし」
「そっか。じゃあ送ってくよ、もう日暮れてるし」
「いいよいいよ近いし。今日もありがとね、お兄ちゃん」
「ううん、早く元気戻しなね」
「もー元気だよっ」

あははと笑って部屋を出て、途中で叔母さんに挨拶して、海道家を出た。

一人になると深いため息が出る。もうこれは癖かもしれない。