ENo.2874 茜

「ごう、しょう、はぁーーーーーっ！！」

真っ赤に燃える俺の拳から放たれた、真っ赤に燃えるような熱線を受け、巨大な岩が真っ赤に弾け飛んだ。

「うむ！拳王の技にだいぶ似てきたぞ。剛の拳の皆得ももうすぐだ！」

サイコパワーの体得者のくりおね師事の元、オーラ的何かを使った技の特訓をはじめ１時間……。オーラなど容易いと拍子抜けしつつ、会得しつつある新たなる力に興奮を隠せません！

「……これで良いのか、俺？」

暇を持て余してくりおねに必殺技が欲しいと無茶振りしたら、向こうもなんか妙にノッてきてこのザマである。

「確かに。フォームにまだ改善の余地があるね。北斗剛掌波は、もっとこう。両手を使って手の平から放つのが正しいからね」

「うーん…。拳を握ってた方がイメージしやすいんだよな。撃ち出す！ってのをイメージし易いというか…」

……いやいや、そうじゃなくてだな。

「それにしても、ずいぶんと簡単にコツを掴んでしまったのぉ。オーラも安くなったものよ」

アドバイザーの名目で見物していたこよみがつまらなそうにぼやく。もっと苦労しているところにちょっかいを出したかったのだろう。くりおねもその点は不満気味のようだ。

「そうなのよー。茜ちゃん簡単に波動の力に目覚めちゃうんだもん。絶対はじめから使えたクチだって！」

「まぁ実はな。今まで隠していたが。……ほれっ」

俺はデコピンのように親指と人差し指を弾いて、そこから生じたちっちゃいもやもやをくりおねに飛ばした。くりおねは手（ヒレ？）で受け止めると「あちっ」と呻いた。

「熱エネルギーをこうやってだな、体の外に出してんだよ。俺、こういうのを研究しているとこに縁が有ったから、見たことはあったんだよね。今まで真面目に特訓してなかっただけで」

「ほう。熱エネルギーを操作して対外へとな。もう少し詳しく聞きたいぞ」

くりおねはぶーぶー文句を言っているが、こよみの方はその研究とやらに興味が出た模様で話に食いついてきた。

「んー。俺もその分野の専門家じゃないから、正しく説明できるか分からんが。エネルギーを貯めた状態で移動させれる物質ってのが発明されたんだよ。一個あたりは目に見えないくらいすげー小さくてな。で、その物質ってのを俺の世界じゃ【エーテル】って呼んでるんだわ」

「へー、何それ。中二臭い」

くりおねが目を輝かせる。まぁ中二臭いよな。作ったヤツに言ってくれ。

「この物質にな。適応できた人間は、自分の体内で自分用のエーテルを作り出せるようになるんだわ。自分用のエーテルは自分の意思で操作できてな。こうやって…」

俺は両手を額のあたりで広げくりおねの方を向く。

「太陽拳！」

カカっとフラッシュ一閃。ちょっと光を出して見せた。

「色んな形で開放できるんだわ」

「凄いびっくりした…。サングラスが無かったら危なかったぜ…」

二人の前に手の平を差し出してみせる。

「ほらこれ。少し青くキラキラしてるっしょ」

俺の手の平の周囲で、極僅かに砂粒より小さい青い点滅がある事を見せる。

「これがエーテルらしいぜ」

二人は、へーとか、ほーとか、興味深々にそれを眺めている。

「こんな物があるとはの。この輝き、チェレンコフ光みたいな…」

「いや、そういう表現はイメージダウンになるから勘弁して」

「チェレンコ……なんだっけそれ？」

割と言い得て妙な表現だから困る。

……二人には内緒だが、生体への影響が無い訳じゃなかったり。
いや、病気になるとかじゃないのよ。むしろ、寿命が延びたり、若返ったり、体が頑丈になったり、傷の治りが早くなったり、瞳の色が変わったり…。

まぁ。大丈夫だろう。　たぶん。

「正直原理とかはわからん。このちっさいエーテルにエネルギーを貯めて色んな形で放出することで不思議パワーを出してるように見せてるだけさ。こんな説明しか出来なくてすまんね」

こよみは先ほど俺がゴウショウハ(偽)で砕いた岩を調べていた。エネルギーと一緒に体外へ放出したエーテルの粒子を確認して感嘆の声を上げている。くりおねも分かっているのか分かってないのか、腕を組んでふむふむ頷いている。

「ってことは、色んな見た目の技が再現できるじゃん！茜ちゃん、もっと技作ろうぜ！」

「いやぁ。体外へ放出するタイプはなぁ。めっちゃ腹が減るからキツイんだが…」

これはマジな話だが、エネルギーを体外へ放出する訳だから、
それを補充したくなるのは当然の話で。

「頼むよぉ。一度で良いからさ、レイジングストームやってよ。くりおねのお願い！」

「マジでぇ…。どのシリーズのレイジング？」

「餓狼伝説ＳＰＥＣＩＡＬの、いや……、リアルバウト餓狼伝説スペシャル
の２Ｐ側のも捨てがたい…、いやそれが良いな…。それで！」

「……しょうがないな。ちょっとだけだぞ」

「わーい」

全くしょうがない。ちょっとだけだぞ。

リアルバウト餓狼……。うん。まぁ適当でいいか。

俺は二人から距離を取り、強く拳を握り締めた。別に特別な技術が要る訳でもない。とにかくイメージ力の問題だ。体の中が熱くなってくる。その熱を両腕に、拳に集めるように。ほんのり握った拳が青みがかってくる。

行くか？　いやもう少し溜めて…

やべ。何か青いの通り越して赤くなってきた。手がビリビリして何か血管とかヤバイ。

「茜ちゃーん、まだー？」

「ちょっと溜めすぎた。よし行くぞーっ！」

俺は両手に意識を集中し、足元にエネルギーを溜め込んだエーテルを叩き付けた。

「レェイジングストォーーーーム！！！」

俺が思っているよりも凄まじい轟音と共にエネルギーが解放され、柱状にイメージした光が立ち上……らず、球形に爆風が弾け、大地もろとも俺は盛大に吹っ飛ばされた！

「ぬわーーーーーーーーーーーーーーッ！！」

残ったのは、大量の砂埃と呆然と佇むくりおねとこよみだけだった。

「しゅ、しゅごい。でもコレ、ハイパードライブを自分に撃った系かなぁ…」

「まぁ。失敗じゃな」

吹っ飛んだ俺は、前回？に続きまたも血まみれのボロ雑巾と化し地面に転がっていた。かなり堪えたが、何とか体を起こし立ち上がった。

「茜ちゃーーーん！大丈夫かーーー！」

くりおねがこちらに飛んできた。意識が途切れそうだが、どうにかヤツの方に向き直る。

「茜ちゃん！ワンモアセッ！」

残っていたエネルギーの全てをくりおねに叩き込んで俺は気を失った。