ENo.1118 エシャロット=グレイス

エピソード１６　行商妖精ポルチーニ

否定の世界アンジニティ、この世界にきて、そろそろ二週間がすぎただろうか。
エシャロットは、その世界で出会った仲間達と、フリストの街と呼ばれるその場所の付近で修行の日々を送っていた。

エシャロット「えははは、久々においし〜お酒手に入ったですの〜〜♪」

恐らくワインかと思われる酒瓶に頬ずりした後、栓を抜いてさっそく飲み始めた。

ぐびっぐびっぐびっ…

エシャロット「ぷはぁ〜〜〜〜っ！！さいっこうですの〜〜〜〜♪」

…修行、なのだろうか。いや、どうしてもそのようには見えない。
エシャロットは豪快に一升瓶のお酒を飲み干していった。

エシャロット「修行とか〜守るため〜とか〜…正直そういうのあたしには向かないんですの〜飲まなきゃやってられないですの〜！！」

どんな時でも酒があれば飲むのだろうとツッコミを入れたいが、今重要なのはそこではない。
ここ最近、エシャロットは妙にやる気を出して戦っているようにも見える。だが実際はやる気があるわけではないらしい…。
この世界はどこも危険…街の近くも安全とはいえない。だから、どうしても力を身につけなければいけなかった。

エシャロット「あ〜、そんなことよりイグニちゃんかわいいですの」

エシャロット「イグニちゃんとどこまでもらぶちゅっちゅっしたいですのぉほおぉぉ！！」

身体をいやらしくくねくねしながらイグニのことで頭をいっぱいにしている…。
万年ニートのエシャロットが、がんばるということは…本人にとって重大な目的ができているということなのだろう。

エシャロット「イグニちゃん触りたいですの〜、あたしの胸で抱きしめたいですの〜！！」

エシャロットにとって、今はそれが一番重要なことらしい…。
なんとも不埒な目標である…。

？？？「そこのおねーさんー」

エシャロット「んー？おねーさんー？」

その言葉に反応して振り向いた。
エシャロットはお姉さんという見た目でもないが、その言葉は明らかにエシャロット向けられたものに聞こえた。
そこには…。

妖精「おねーさんおねーさん、なんか買ってってよー」

エシャロット「ひゃあ！ここにも妖精さんですの！かわいいですの〜！！」

ぶかぶかのローブを着込んだ、小さな妖精が足元にいることが確認できた。
その他に、商品と思われる武具やアイテムが色々と置かれている。
その服装と、展開されたバザー露店を見る限り、商人の妖精だろうか？

エシャロット「妖精さーん妖精さーん、頭なでなでいいですの〜？えははー♪」

妖精「いいけどお金とるよー？」

エシャロット「あぁーん、それは困るですの〜」

このアンジニティでは物価も高く、お金は無闇に使えない。

エシャロット「じゃあー、せめてー妖精さんのお名前なんてーのー？」

妖精「あちし…？うーん…」

エシャロット「ん〜？」

妖精はじーっとエシャロットの外見を見回すように見た。
しかしその見つめる時間はわずか５秒もしないほどの数秒の時間だった。

ポルチーニ「あちしは世界を旅する行商妖精！ポルチーニ・カシスイエだよ！」

自慢気に名前を名乗りあげる妖精。
彼女の名前は、ポルチーニ・カシスイエと言うらしい。

エシャロット「えはー♪あたしはエシャロットですの〜、よろしく〜ですの〜♪」

ポルチーニ「自己紹介とかいいからなんか買ってってよー！わざわざ名前教えてって言葉にタダで答えたんだからはやくー！」

エシャロット「んもー、釣れない妖精さんですの〜」

ポルチーニはなかなかがめつい感じがする。
根っからの商人気質な雰囲気だ。
できれば雑談したかったみたいな様子のエシャロットだが、あきらめて並べられた商品を見始める。

ポルチーニ「これとかどうー？300ポーションSETがなんと60PS！ここで買ったほうが、いっぱいお買い得だよー！」

普通に買うと120PSはするポーションセットが半額。確かにお買い得である。
だが、それはどこで仕入れたものなのだろうか…？
現状、各街の道具屋くらいにしか置いてない、材料などの入手先不明のものだが…。

エシャロット「わーお！これはお買い得ですの〜！！」

しかしまったく怪しいと思っていないエシャロット。
お買い得商品を見つけた主婦のように目をキラキラさせていた。

エシャロット「んでも〜、ポーションセットはまだあまってるからいいですの〜」

ポルチーニ「ありゃりゃ、残念ー、でも他にも色々あるからさ！これとかどう？おねーさん！」

間髪をいれずに次の商品を進めてくる。
これは何か買うまで逃してくれなさそうな雰囲気だ…。

エシャロット「お〜？これは〜？」

露店の端っこのほうに置かれた、武具が目に入る。
叩撃武器として扱う小型の木槌に、魔石、服、そして、お守りと思われる装飾品が並んでいた。

ポルチーニ「お〜、お客さんお目が高い！それはみんな椿で作られた魔法のアイテムだよー！！」

エシャロット「椿〜？椿って森でとれるあの木材ですの？」

ポルチーニ「そうだよー、４つも仕入れるの大変だったよー！」

見た感じ、ポルチーニは戦える様子もなく、これといった武装があるようにも見えない。
アンジニティの世界の森は、普通の世界よりも凶暴な魔物もいる。
そんな場所で素材を手に入れてくるなどよっぽどの実力者くらいだと思うが…。

ポルチーニ「これが炎の力をあげる小槌！これは相手を魅了する不思議な魔石！この防具は〜…」

エシャロット「ふぁ〜〜……♪」

ポルチーニ「って、聞いてよー！お客さんー！」

どれにも興味がない…もとい、必要ないと感じている、エシャロットは大きくあくびをしていた。
魅了する魔石と言われた時に、少し耳がピクッと動いたが、よく考えたら魔石は扱えなかったので思い直していた。

エシャロット「（この妖精さんかわいいけどお話長いですの〜、早く帰ってイグニちゃんのお顔を眺めて〜）」

エシャロット「（うへへ〜…♪）」

もはや、別のことを考え始めていた。
エシャロットはほしいと思ったら、出し惜しみせず買ってしまいそうなチョロいお客様みたいなところだが
その客が、興味を示す商品を置いていないのでは意味がない…。

ポルチーニ「そしてこれが最後の商品！おまもり『心頭滅却』〜！！」

…そう思っていた、矢先であった。

ポルチーニ「これは『炎から身を守る』お守りだよー！これさえつけていれば『熱くない！』沸騰したてのヤカンだって素手でもてちゃうよー！」

ガタッ！！

ポルチーニ「ビクッ！？」

エシャロット「その話は本当ですの〜！！？」

ポルチーニ「顔が近いですお客様！」

エシャロットの目が、獲物を見つけた野生の狼のようにギラリッと光っている…。
絶対に買おう。すでにその行為はエシャロットの心のなかで決定していた。
…ポルチーニが、ニヤッと少し笑った気がした。

ポルチーニ「それじゃ、420PSになりますー♪」

エシャロット「はいはーい…てえー！？高いですのーー！！？」

全力でお金が足りない、それほどの大金を今、持ち合わせているわけがなかった。

エシャロット「やーだー！ほしいですの〜！ほしいですの〜！まーけーてー！！まーけーてー！！」

ポルチーニ「えー、仕方ないなぁ…じゃあ220PSでいいよ」

エシャロット「おっほ！！安いですのー！！それなら買うですのー！！」

確かに最初の金額よりは大幅に安くなった。
だが冷静に考えてみてほしい。紅印LV1しかついておらず強度も明らかに低いと思われるこの装飾。
そんなに、高いはずがない…。

ポルチーニ「まいどあり〜♪」

エシャロット「やったですの…これさえ、これさえあればあたしはイグニちゃんと…！うっひゃー！待ってるですの〜愛しのマイグニー！！」

そう言いながら、エシャロットは足を渦巻きのようにぐるぐるした形にしてものすごい速さで走っていった…。

・・・

ポルチーニ「んっふふー、まさかこんなのが220PSで売れるなんて、いつの時代も、需要がないなんて言葉はないんだなー♪」

ポルチーニはものすごく上機嫌な様子で店じまいをしていく。
腰につけられた『ホールディング・バッグ』と呼ばれる、小さく丸いバッグが、吸い込むように商品を収納する。
妖精の小さな体格で、自分よりも大きなアイテムをたくさん並べられていた理由はそこにあったようだ。

ポルチーニ「売れなかったら100PSくらいには値下げるつもりだったけど早漏なエルフさんでよかったよかった、儲けたなー♪」

今まで、そこにポルチーニがいたというような痕跡もないほどに綺麗な店じまい。
そして妖精は空高く飛び立った。

ポルチーニ「まぁ、あれって100PSの価値もないんだけどね、椿一個で無理矢理武具を４つ作ったものだし…」

…紛れもなく、完全なる詐欺であった。

ポルチーニ「エシャロット…だっけ…？椿で作った武具にも需要があることがわかったよ、見た感じ町娘みたいだし、もう会うこともないだろうけどねー♪退散退散ー♪」

行商妖精ポルチーニ…。
彼女はウキウキと上機嫌の様子で、次の街へとむかった。