ENo.3253 赤音モーテル

ドッキドキ！　いちゃいちゃお風呂で流しっこタイーム！

「…………」
「…………」
「ど、どうしたんでしょうか。赤音君がおかしくなってしまいました」
「赤音のことだから、またふざけてるんじゃないの？」

モニターの前の皆さんこんばんは。元気かしら？
砂に森に山に平地に、私たち『グリ音モイル』は疲れ果ててしまったわ。
そうね、疲れはお肌に良くないわね。

そして辿り着いたドネスクの街。
ああ、ついにフカフカのベッドで睡眠がとれる。
そう思ったのも束の間、街は荒れ果てていました。

しかし悲しんでいる暇なんてない。私たちは宿を探さないと。
そして見つけた今にも倒れてしまいそうな宿屋。
あいるは「屋根があれば何でもいいよ」と言ってたかしら。
だけど、私が心配していたのは屋根でもベッドでも食事でもなかったわ。

そう、それはお風呂！
私はお風呂が好きなの。
どのくらい好きかと言うと、毎日一回は入るくらい好きよ。

まあ、それはおいといて、この宿屋には素敵な露天風呂があったの。
よく見ると屋根が朽ちただけのような気もするけど別にいいの。
お風呂があったのが嬉しいわ。

じゃあみんな、録画の用意は大丈夫かしら？

エントリーナンバー1番
肉がアタシに焼かれたがってるよ『天王洲あいる』！

「相変わらずわけわかんないね！　風呂なのに全然ゆっくり出来ないじゃん」

エントリーナンバー2番
ケモ可愛い！　説明不要！　音の管理者『グリマス』！

「……何なんですか、恥ずかしいからあんまりこっち見ないで下さい」

ふふ……私の力はそんなもんじゃないわ。
赤音モーテルは世界を視る力……タオル一枚で隠せるかしら。

「！？　……なんだか、あらゆる方向からすごい視線を感じます！」
「こら、やめろ！　変態か！　こっちを見るな！」

視ることは可能……だけど視ないことは不可能。
私が赤音モーテルを受け入れたときから、視ないふりは出来なくなったの。

あいるの幼さの残る顔と引き締まった身体や
性別すら分からない少年のような魅力に包まれたグリマスの身体も
そしてその二人の身体を流し合う罪深い瞬間さえも
私は視てしまう、瞳に焼き付いてしまうの。

「もういいから普通に入って下さい！」

…………。

そんな感じにふざけ合いながら私たちはお風呂に入った。
風呂は露天風呂には程遠い、酷い作りだった。
浴槽はある程度の大きさはあったが三人で入ると足がぶつかる広さだ。
足を伸ばしてみる、足はあいるの太ももの内側に触れた。
あいるの肩がビクッと小さく震え、足を閉じてしまった。
……かわいい。
普段サバサバしているあいるは時折、とても可愛い瞬間を見せる。

私は浴槽の壁にもたれかかりながら空を見上げた。
空は崩れた壁と天井で切り取られていた。
曇った空が私たちのこれからの旅の危険を予感させた。

私たちは……いいえ、二人は、強くなりすぎたのね。
私は何も否定することなく、この世界を進んでいるわ。
これは私が望んだ結末なのかしら。

この先、敵が強くなろうとも決して挫けず希望に満ちた二人を見るか
歯が立たないモンスターに打ちのめされ絶望に心が折れた二人を見るか
どちらかの未来を視るとしたら……私はどちらを望んでいるのだろうか。

…………。

「ふう、温もりすぎたかな。のぼせそうだよ」
あいるは立ち上がりお風呂場から出て行く。
可愛いお尻をしている。
「私たちも、そろそろ上がろうかしら」
「そうですね……ところで」
グリマスが私を見てたずねる。
「赤音君は、どうして帽子を被っているのですか？」
「……そうね、帽子が無いとキャラが薄いからかしら」
「よく分からない理由ですね」
「ふふ……ちゃんと防水仕様だから大丈夫よ」