ENo.1774 募集中

「おい、よく聞け糞猫。今から大事な事を言う」

不機嫌そうな顔で言うのは見たことの無い美形の天使。
体もしっかりしていて良い感じだ。
僕はさっきまで、毛布に包まってジルが何か演奏しないかと寝た振りをしていたが
突然、意識が離れる感覚がした。
今は何も無いところで美形天使と向き合っている。

「は…え、君は誰？」
「みりゃ分かんだろ、天使だよ天使。」

ぶっきらぼうだ。
お陰でこれが只の夢でない事が解った。
僕の夢だったら、僕に都合良く懐いてきそうなものだったから。

「ああ、うん…でも僕、天使に知り合いなんて居ないんだけど。僕の事、知ってるのかい？」
「あ？嘘つけよ、お前ここに来る前にもう一人天使にあってるだろ。」

何でこの人、僕の事知ってるんだろう。

「ここに来た時の事かな？会ったっていうか、突然現れて話しかけられて、すぐに消えちゃったよ。」
「そいつだよ、まぁそれはどうでもいいや。とにかく今から俺が言うことよく聞け。」

あの天使とも知り合いっぽいな…僕に会ったと聞いたのだろうか？
あの天使…名前も知らないけど、ジルに会わせてくれた事は感謝している。
たぶん、僕をアンジニティに送り込んだ天使だ。ここから出る方法も知っているかもしれない。

「お前と一緒にいる悪魔な、あれがアンジニティからもし抜け出せたとしたらそいつ殺されるぜ。」
「…は？」

聞き返したのは、聞こえなかった訳でも理解できなかった訳でもなく、
理解したくなかったからだ。

「何、耳悪いのか。猫なのに？だから殺されるって。」

僕は猫じゃない。

「訳が解らないんだけど…どうしてジルが殺されるのかな、ああ、口にするだけで舌噛みたくなるよ…」

ジルが死ぬ……そんなの、僕にとって世界に何も無くなるのと同じだ。

「別に俺はお前が死んでもいいけど、自殺とか大罪だぜ？
　いや、だから俺ら天使が折角閉じ込めておいた悪魔を逃しておくわけ無いでしょ？ってことだよ。分かれよそのぐらい。」

天使って、罪とかに煩いのかな。

「はぁ、僕が自殺したからって天使に関係ないのに。
　いやそれより、ジルにここから出られると言ったのも天使なんだけど？」

「教義上そう言わないと上役に怒られるんだよってそれはどうでもいいとして…
　天使の中でも変わり者のやつが居てね、そいつがあの悪魔にチャンスをやろうとしているのさ。
　あれが改心すれば外に出しても無害だろうってね。だけど他の天使連中にはそんなちゃちな言い訳が通用するわけがない。
　閉鎖されたアンジニティで手は出せないから外に出た瞬間消そうというわけさ。」
「………ふぅん…それで、君はどうしてそれを教えてくれるのかな？」

初対面の天使をそう簡単に信用する訳にはいかない。

「俺はその変わり者の一派だから、ってのもあるが同時に外にあれを出したくない側でもあるのさ。
　悪魔を信用するなんざ、ぶち殺されてもできないね。半分だけ天使のあんたにお情けをかけたとおもっても構わねぇな。」
「……僕は天使の事なんて何も知らないけど…天使がジルの敵なら、僕は天使じゃない。」

悪魔を信用しない…ジルは改心しない、とでも思っているのか。
それでアンジニティから出したくないと言う事は、ジルを倒せないと思っているか…
倒せたとして、戦闘の被害を懸念しているのか…ただ面倒だと思っているだけかもしれない。
他の可能性は…この天使の望んでいる事は…

「そう思うのは勝手だがね。まぁ後は好きにしろよ。どうあっても筋書きは決まっているんだ。
　あの悪魔を助けるって決めたのなら覚悟しろ。お前も同罪で裁かれることになるかもな。」

この天使がどうしたいにしろ、警戒しておくに越したことはない。
この世界を出ても、ジルに安息は無いかも知れない…。

「誰かが決めた罪なんて関係ない。…警告をありがとう。
　僕はジルを守る。」

天使の顔が歪む。
これまでに何度も見た顔だ。ヘドロでも見るような。
僕の性癖について、理解できないという。

「あぁ、うん、あっそ。そいじゃ頑張れ。もう会うことも無いだろうけど。」

性別のはっきりしない天使でもこうなのだから、人間や悪魔なんか、もっと理解し難いだろうな。
この天使は男っぽかったけれど。