ENo.312 田貫　青丹

青丹は今日も居間で団子をほおばりテレビの前で寝転がっていた。

先生「「青丹」」

青丹「なんです、先生。あっ、ご飯ですか？」

先生が路頭に迷っていた青丹を拾い、弟子として育ててからもうずいぶんと経つ。
しかし先生がどれほど懇切丁寧にその技術を伝えても、この子狸は真面目に仕事を手伝うどころか働く意欲も見せず今日まで過ごしてきた。

先生「働かずに食べるご飯は美味しいですか」

先生はすっかり怠け癖のついている弟子に深いため息をついた。

青丹「えっ？うーん、先生のご飯は特別美味しいってわけじゃないけど、でも先生のご飯は好きで…」

先生「そういうことではありません」

今日までどこかで甘やかして育ててきたかもしれないが、それも今日で終わりだ。

先生「今度こそあなたにはきちんと働いてもらいますよ、明日から」

青丹「え…えっ！？」

青丹は持っていた団子を落とすと激しくうろたえた。

青丹「そ…そんな…いや…いやだよぉ…無理だよぉ…うっ…ぐすっ…」

先生「泣いても無駄です。明日から当分、わたしは留守にします。その間お店番をしてもらいますからね」

青丹「えっ、さぼれる」

先生「えっ」

青丹「いえ、なんでも」

青丹はけろりと泣き止むと先生の前に両手を差し出した。

青丹「えーっとぉ。それじゃあその間の生活費とかお小遣いとか。ください」

先生「ありません」

青丹「えっ」

先生「無い、といったのです」

青丹「えええええっ！？先生どうしちゃったんです？お金がないとご飯も買えないし生活できないんですよ？そんなのそこらの野良犬でも知って…」

げんこつが子狸の頭に振り下ろされた。

青丹「いたい！」

先生「ただお店番を任せていただけではあなたがさぼるのは目に見えている。そこでわたしは考えました。留守の間の生活費は、青丹、あなたがお店の売り上げからまかなうのです」

青丹「そっ、そんな！たぬきが商売するなんてイメージ悪いですよ！なんか化かしてるみたいだもん！だからやめましょう、ねっ！」

先生「居酒屋にたぬきの置物が置いてあるお店もけっこうあるから問題ありません」

青丹「そんな…置物のような人生なんてまっぴらごめんで…」

先生「ですから真面目に働くのです」

青丹「う…うう…」

先生の決意は固い、そう感じ青丹もそれ以上は何もいえなくなった。

青丹「じゃあじゃあ。せめて先生が出かける前の決起大会ということで、ご飯はわたしが作ります！なので材料費ください」

先生「まあ…そういうことでしたら…せっかくの気持ちを無碍にもできませんし」

先生は財布を取り出し、お札を何枚か手渡した。

先生「いいですか、おつりをごまかしてお団子を買ったりしてはいけませんよ」

青丹「もちろん！そんなことは天地神明にかけていたしません」

その日の食事は団子丼、焼き団子、揚げ団子という画期的な献立になった。