ENo.1966 シンシア・S・ガードナー

-フリストの街にて/情報収集後-

「今日も不作か・・・このままじゃ村の行く末が不安だぜ」

「いっそ海でも渡れれば速いのだが……そう都合のいい話もないな」

「船か・・・そーいやこの世界じゃまだ見かけてないな。漁とかしてないんかね？」

「釣り人はいたが……これだけ入り組んだ陸の形をしているというのにな。
　野生生物が凶暴だからかもしれないな」

「あー……なるほどな、そう言われると合点するな。どちらかと言えば細々と農作物って感じだもんなー」

今日も特に目新しい情報はなし。
先行している開拓者たちによる地図南部の更新程度だった。
その地図によると陸地が大きく蛇行しているらしいというので、
海路を考えたのだが船などはなかった。
建物の建材はあるというのに船がないということは、
船を造るだけの技術がないか、造っても壊されるということだろう。

「三郎さん、シンシアさん」

「お、あげはちゃん！」

「何かあったのか？」

「いえ、特には……お二人もあまり収穫はなかったみたいですね」

「微塵にも、て訳じゃあないが前に得ている情報とさして変わらないな」

「地図の開拓はだんだん進んでいるらしいが……相変わらず先が見えないままだ」

「そうですか……私も同じようなものです」

やはり不発に終わったらしい。お互いに苦笑が混じる。
情報収集に関してはおそらく私よりも二人の方が向いているとは思うが、
逆に言えばこの街に留まって手に入る情報がもうほとんどないとも取れる。

「強いて言えば、明日がちょっとしたイベントだって事ですけど……
　そうだ、一日早いですけど、良かったら貰ってください」

手にした紙袋から包みを二つ取り出す。
中身は……チョコレートのようだ。

「ほーぅ、こいつは嬉しいね！男としては女の子から貰えるものは天の施しに等しいからな！
　まさか、俺様に惚れたりしちゃったかな？はっはっはっはっはっ」

「いえ、いつもお世話になってるのでそのお礼です」

「・・・・・・ぃぇ・・・ぃぇだって・・・ぅう・・・」

にっこり笑顔できっぱりと言い切るあげはと、大仰な仕草でダメージを受ける三郎。
『こちら』とは若干風習が違うのかもしれない。私が知らないだけの可能性もあるが。
文化的な人付き合いは少なかったので、伝承や風習などにはあまり詳しくないのだ。

「チョコレートか。……そういえばこの時期になるとよく貰っていたな」

「えっ、シンシアさんは貰うほうだったんですか……？」

「ああ、息抜きになるからと交換会のようなものがあってな。私はいつもチョコクッキーを作っていたが」

交換会とは別に自室に届く分もあったが、それはごく一部だ。
一度に食べ過ぎないように、と釘を刺されたのも懐かしい。

「あぁ、なるほど交換会ですか。……シンシアさんのクッキーかぁ、おいしそうです」

「そのうちまた作りたいな。最近はなかなか時間がなくて作っていない」

「あ、その時は手伝わせてください！私、一度作ってみたかったんですっ……ぁ」

あげはにしては珍しく身を乗り出して言ってくる。……と、手元の袋から包みがもうひとつだけ落ちる。
慌てて拾うあげはに三郎が反応した。

「そ、それはまさか・・・」

「ん、それだけ包装が違うのか」

「やめろぉ！シアたん現実を直視させるなぁッ」

「え、えっと、これは、その……あ、あの、私、ちょっと気分が悪いので、先に休みますねっ！」

あわあわと視線を逸らして、そのまま脱兎のごとく逃げ出してしまった。
どうも見られたくなかったらしい。
今はそっとしておこう。

「いつか、お兄ちゃんにその人を紹介するんだぞ・・・」

天を仰ぎ、そのまま崩れ落ちる三郎。
どうもショックだったらしい。
今はそっとしておこう。