ENo.2831 ひなた　＆　ひかげ

いつもと変わらぬいつも通りの朝。
あたしはいつも通り目を覚ます

　　ふわぁぁぁぁぁぁぁぁ…。

大きなあくびとともに体を伸ばす。
空気をいっぱいすいこんで。
ただしこの世界に空気なんてものがあるとするならの話だけど。
あたしのまわりは白くぼやけたもやのような世界が広がっている。
ベッドもおふとんもなく、勉強づくえもない。
窓もなければドアもなくましてやまんがの並んだ本だなもない。
ぶっちゃけなにもないのだけれど、それはそれでまあいつも通りのことだ。
となりにはひなたがいつも通りの笑顔。
それを見るとあたしは少しだけ安心できる。

　　ひーちゃんおはよう。よく眠れた？

　　ええ、これ以上はないくらい快食快眠快便よ。と言いたいところだけどお腹もすかなければおしっこもしたくないわ。
　　便利っちゃあ便利ね。そうそうひなた、あたし昨日すっごい夢見たのよ？聞きたい？ねえ聞きたいでしょ？聞きたいなら
　　聞かせてあげるわよ特別に。

　　ひーちゃんの夢の話聞きたいねぇ。

　　ふむふむそうでしょうそうでしょう。ならば聞かせてしんぜようひなたくん。なんとくまと戦ったのよくまと。
　　それもただのくまじゃないわ、しゃべるくまよ日本語で。殴ったらぶーって鼻血出しやがってさーっくまのくせに。
　　むろんこのひなたさまの敵じゃあなかったけどねぼっこぼこにしたあげたわよ。
　　こおあたしがくまごときにおくれを取ったりするもんですかってぇのよ。
　　
　　悪かったな鼻血出す熊ごときで。しかし小娘いつの間に俺がお前に一方的にぼこぼこにされたことになってんだ？
　　あぁん？話盛りすぎじゃね？

　　そうそうこんなふうに生意気なしゃべり方しててさぁ。あ、いっちょまえに鼻にティッシュ詰めやがって。
　　そういえば鼻血だしたときそのくま涙目になってたのよ笑っちゃうでしょー………って……
　　なんでくまがいるのよくまがっ！！！
　　てかうすうすおかしいとは思ってたわっ。なんかちょっとちがうなーってねっ。
　　けどさあっ！！！
　　なんでまだ夢の中なのよっ！！どういうことよっ！！！

　　あはは、ひーちゃんは相変わらず面白いねー。

　　うっさいだまればかひなたっ！！

そう。
まだ続いていたのよね、残念ながら。
あたしの目の前にはくまがいた。
ごていねいに鼻ティッシュまでして。
いっちょまえにあぐらをかいている。
残念ながらそのくまは頭弱そうにはちみつ食べてるわけでもなく、ましてらリラックスしてるわけでもない。
いわゆるでかくて、茶色の、右から見ても左から見てもくまだ。

　　で、いったいなんの用？あたしに負けたんだからとっとと尻尾まいて逃げたらどうなのよ？

　　だれがお前に負けたって？なんならもう一戦、今度は手加減抜きでその低い鼻っ柱たたき折ってやってもいいんだぜ？

　　く、くまに鼻のひくさ言われたくないわよっ！てかさきほどはてかげんしてくださったみたいな言い方されましても
　　あたくし困ってしまうんですけどほほほほ。

と、言うが早いか臨戦態勢に入る一人と一匹。
笑顔のままのんびり座っているひなたを挟んでじりじりと間合いを取る。

　　やんのかこらぁ、あぁん？

　　今度は涙目じゃなくていいわけできないくらい泣かせてあげるわかかってらっしゃいっ。

　　…あのお。話が進まないんでそろそろ落ち着きません？二人とも。

　　…お…おう。すまん、ひなた。
　
　　…しょうがないわね。今日のところはひなたにめんじてかんべんしてあげるわ。

けっきょく第二戦はひなたの不戦勝だった。
なんか納得いかないわ…。

◇　◇　◇

　　

　　一緒に戦いたいってどういうことよ。

　　言葉通りなんだけど。

　　戦うのはあたしの役目って言ってるでしょ。

　　うん。

　　じゃあなんで今さらっ！？そんなにあたしのこと信用できないの？あたしが弱いって言うの？

　　そうじゃないよ。ひーちゃんは強いよ、僕なんかよりずーっとね。けど…。

　　じゃあいいじゃないの今までのまんまでさっ。もうこの話は終わりよ二度としないでちょうだいっ。

　　けどね、ひーちゃん。

　　けどもへったくれもないのよっ！てかへったくれってなによ日本語？頭おかしいのっ？

　　へったくれがなんなのかは僕も知らないけど、ね。僕は嫌なんだよもう。

　　いやとかなんとかガキみたいなこと言ってんじゃないわよなにがいやなのよまったくばかひなたっ。

聞かなければ、話は終わったかもしれないのに。
この後、いろんな意味であたしはこうかいすることになろうとは今のあたしには知るよしもなかったとかなんとか。

　　ひーちゃんが傷つくのが。いや違うよね。ひーちゃんだけが傷つくのが、嫌なんだ。

あーあ、言われちゃったとうとう。
聞きたくなかったなあ、ほんとに。

　　あ…あたしはいいのよ怪我しようとどうしようとあたしの好きでやってるんだしさ。けど、、ひなたは違うじゃないっ。
　　あたしと一緒になって戦う必要なんてないのよ？わかる？

　　そうかもしれないけど…。

　　だったらいいじゃない、今まで通りで。なんの問題もないわ。

よかった。
なんとか話がすみそうよね。
と、あたしがためいきをついたその時、外野が余計なことを言ってきた。

　　そんんだから強くなれねえんだよ小娘…じゃなくてひかげは。

くまが言ってきた。
楽しそうな顔で。
少なくともあたしにはそう見えた。
くまは笑ってた。

　　あんたは関係ないでしょっ、このくまっ！！

　　このくまって…ひでえなひかげ。ボッキャブリーなさすぎだぜ？

　　ボボボボボキャブリリンってなによこの鼻血くまっ！だいたいあんた何なのよいつもいつもじゃまして。
　　なんかあたしにうらみでもあるの？ひまなの死ぬの？

　　なにっつーか、なんだ、あれだよあれ。

なにかごまかしたいらしいふんいきありあり。

　　ふん、言えないようじゃろくな大人になれないわよねっ！

　　くまさんはお母さんの知り合い…ですよね。
　
　　へ？ひなた今なんて…？

　　そ、そうそう。俺はあれだ。お前らの母ちゃんのほれ…古くからの友人ってやつだ。

　　くまが友人なわけないでしょ？ばかなのあんた。あのば…じゃなくてオカアサマがくまの着ぐるみ入ってたのは知ってるけど
　　だからってくまの友人なんているわけないじゃんっ。もしかしてあんた着ぐるみなの？だったらチャック見せてみなさいよっ。

　　ひーちゃん…。

　　なによひなたまでっ、だまってなさいよあんたもっ！　ん…あれ？ひなたなんで知ってるのよこのくまのこと。

そう、おかしい。
このくまはあたしの夢にいうもいつも出てきた。
と言っても顔は見たことないけど。
声はたしかにこのくまのもので間違いない。

　　だって、僕の夢にも来てくれてるし。

　　へえそうなの。ってだったらなんで今までそのことあたしに言わなかったのよっ！！

　　いや、夢だし。そんなこと話してもひーちゃんに笑われるかと思って、さ。

　　笑うかどうかなんで話してみないとわからないでしょっ！？…いやたぶんきっと間違いなく全力で確実に笑うわね。

　　ほらな。俺の言ったとおりだろ言わなくてよかったじゃんひなた。

　　そうですねー。

　　なによ二人であたしのことばかにしてっ！！

◇　◇　◇

　　で、そいつの名前はなんて言うのよ？

　　えっと…くまさん、かな。

　　そんなの見りゃわかるわよ。くまのなにさんかって聞いてんのよ。

　　はっはっは、名も無き熊とでも呼んでくれ。

　　うるさい黙れこのくま野郎。

　　ひでえなおい。

　　それでそのくまさん野郎さま、あたしが強くなれないとかなんとかさんざん言いくさりやがってどういう意味なの言ってごらん
　　なさいよ事としだいによっちゃあ許さないわよまじで。

　　なんだその言い方は、いいけどよ。難しい話は置いといてだな、強くなりたいっつーひかげの気持ちは大事だけどな。
　　それをひなたに押し付けるのはどうかと思うのよな。普段の稽古や学校での喧嘩なんてのはひかげの好きに
　　すりゃいい話だけどな。世界一を目指すのも大いに結構。けどな、お前らは兄妹、それも双子なんだぜ。
　　片割れの妹だけに頑張らせてたら…兄ちゃんかわいそうだろうが。それもこんな異世界でだぜ。

　　そう…なの？ひなた。

あたしの、片割れと言われた少年がうなずいた。

　　それだけじゃないけどね。僕も一緒に戦いたいんだ。ひーちゃんと一緒に戦って、勝ったら喜んで。負けたら悔しんで。
　　一緒に強くなろうよ。ここなら…きっと出来るよ。一緒に、この世界を救おうよ。

ああ…これはもう、何を言ってもむだだわ。
あたしは聞いたことをこうかいして、そしてあきらめた。
そしてひなたは取り出した。
あたしたちがこの世界に来てから作ったものを。
変身ベルトを。

　　　冗談でしょ？

　　　ううん。ひーちゃんこれ着けてよ。それで…。

　　　い、いやよ絶対っ。冗談じゃないわそんなことっ。

　　えー、いつも着けてくれてたじゃない。なんで今更嫌がるのさっ。

　　そ、それはひなたあんたが余計なことしようとしてるからよっ！

　　まだなにも言ってないよ。

ひなたが微笑みながら言う。
あたしにはそれが悪魔の笑みにみえた、いやまじで。

　　うぅぅぅぅ…いやだなあ。

いやいやベルトを装着したあたし。
かたやひなたはニコニコしてやがる。

　　大丈夫、きっとうまくいくよ。僕を信じて。

　　いや…信じてるから嫌なんだけど。だめ？ほんとにやらなきゃ。

　　頑張ろうねっ。

うわー、聞いてねえでやんのこいつ。
ちなみに、ベルトはあたし。
ひなたはくまの形をした石を持っている。

　　じゃあっ、いくよっ。

　　あーもうっ、好きにしなさいよまったくっ！！

あたしとひなたは右手をあげ、交差させた。

　　変身！！
　　
あたしたちの体が光につつまれて。
ひとつになった。