ENo.1828 霊夜　代

――この先の話を語る前に、一人の竜人の少女の話を語らなければいけない。

およそ、15年前。

少女は、幼くして母を亡くした。
父は多忙だったが故に、少女と接する時間が全く無かった。

少女が人を恋しく思うのは、当然であった。

しかし、周りの人々は安易に少女に近寄ろうとしない。
理由は大きく分けて、二つある。

ある日の事。

「……リン様。また中庭に出ていらっしゃったんですか？」

「……婆や。」

「さあ、早く中に……」

老婆は少女を王宮に招こうとした。
そして、少女が抱えたモノに気付く。

「なっ……何を持っていらっしゃるのです！？」

少女が抱えていたのは、青い小鳥の亡骸であった。

「……婆や、どうやったら小鳥さんはお空に行けるの？」

「そ、そんなもの、早くお捨て下さい！」

「……。」

「り、リン様！！」

少女は亡骸を抱え、王宮の中に入った。
そして廊下に出て、様々な人に同じ事を尋ねて回った。

しかし、抱えているモノを見ると、大抵の人は避けるようにした。
気味が悪かったからだ。

少女の名は、リン＝C＝ファンタジウム。
国王の一人娘であり、姫君である。

身分の低い者は彼女と話すことさえ許されていない。
それが彼女を孤立させる要因にもなった。

リンは、小鳥を抱えて王宮を回る。
自分では、幼すぎて問題を解決する事が出来なかったからだ。

誰もが避けており、諦めかけていた頃だった。

「……リン様？　お部屋は……そちらではありませんが。」

少女に話しかける者が一人。
つい先日、騎士団長になった者だった。

「……小鳥さんが、お空に行けないの。どうやったらお空に行けるの？」

「……。」

騎士団長はそのモノを見たとき、少しだけ驚いた。
しかし、すぐに先程の表情に直すと、少女に視線を合わせるように屈み、ゆっくりと話した。

「……もう、空には行けません。その小鳥は、もう死んでしまっているのですから。」

「知ってるわ。だから、どうやったらお空に行けるの？」

「……。」

騎士団長はリンの言葉に悩んだが、それがどういう意味なのかをようやく理解した。

「……そう、ですね。亡骸を弔い、祈りましょう。きっと、その小鳥も満足してくれます。」

「……とむらい？　どうやってするの？」

「……ええ、ここでは難しいので、中庭にでも――」

「中庭は嫌。口五月蝿い婆やが居るんだもの。」

「……う、ううむ。では……そうだな、裏門からこっそり出ましょう。」

「わかったわ。」

騎士団長はリンを連れて、裏門に向かった。
警備の兵士に事情を説明し、裏門を開いてもらい、出てすぐの場所でリンに待つように言った。

集めてきたのは木の枝。

集めてきた枝を重ね、そこに火を灯した。
火はすぐに燃え上がり、火葬するには十分な火になった。

騎士団長はリンが火傷しないように手を添え、ゆっくりと亡骸を火の中に入れた。

「目を瞑り、手を合わせ、祈って下さい。次の人生が幸福であるようにと。」

「わかったわ。」

リンは目を瞑り、合掌した。
これで小鳥が空に行けるのか不安ではあったが、自分では他に方法を知らないのだから従うしかなかった。

……どうか、次の人生……鳥だから鳥生？　が、幸せになりますよーに。

これぐらいでいいだろうと思い、リンは目を開いた。

すると騎士団長はまだ眼を閉じて合掌していた。

その顔は真剣で、いい加減にやってしまった自分が情けなく思ったのか。
リンはまた眼を閉じて合掌した。

「……これで、あの青い鳥は空へ羽ばたけたでしょうか。」

リンは眼を閉じていたので、突然声をかけられたので吃驚した。

「え……えっと。」

リンは辺りを見回した。
すると、リンは空に何かを見つけたように一点を見つめ、そして笑った。

「喜んだみたい。お空に行けてよかったね。」

「そうですか、それは何より。」

空を見上げてたリンに倣うように、騎士団長も空を見上げた。

「……私も、羽ばたく事が出来たら…………」

「……？」

リンは騎士団長の小さな呟きを聞いてしまった。
そして不思議に思った。

この人は竜人なのに、何故翼が無いのだろう、と。

「……そろそろ戻りましょう。いつまでも表に出ていたら、身体を壊します。」

「……え？　うん、そうだね……戻りましょう。」

そして、リンは騎士団長と一緒にまた王宮へと戻っていった。

これが、少女と騎士団長の初めての出会いである。

少女の名は、リン＝C＝ファンタジウム。
国王の一人娘であり、姫君である。

身分の低い者は彼女と話すことさえ許されていない。
それが彼女を孤立させる要因にもなった。

しかし、身分が高い者も彼女に気安く話しかけようとはしない。

彼女は死者を視る能力がある。
そして、彼女は死者と話す能力がある。

それが普通の者であれば気味が悪いように見えてしまうからだ。

小さい頃に彼女と仲良く話せた者は、たった一人だけ。