細波の音が心地良い。 吐く息が潮風にたなびき、散らされていく。 波間にたゆたう肢体は女人としてはっきりした形を示しており、飾り付けられた胸元の十字架が波の動きに合わせて揺れる。途中取れそうになるのではないかと危惧して時折指先に絡め取る。 片手で跳ねた桃髪を押さえながら、風をやり過ごすかのように海上へ押し上げようとする肉体を下へ下へと動かしていく、 水がしみて緩やかに双眸を伏せた。今一度開かれた時、海底に挟まった"ソレ"を、頭を押さえていた手で伸ばして拾い上げる。 「取れました！」 スキルストーン——曰くテレポーターやスキルの発現と、様々な用途、役割を持つマジックアイテム。 この世界ではそのような不思議な石を以って、水中では水に濡れず行動することが可能である。 この石が配布された、すなわち女が冒険者の肩書を得たのはおよそ数日前。 女は泳ぎの練習がてら、ひとつ奉仕活動に励んでいた。 声を発する効果だけを適応し、発達した肉体による浮力《しょうがい》に抗う事4度目にしてようやく海底へと指先を近づけた。 目標としていたのは空き缶。女は海底に捨てられた不純なゴミを拾い集めることを目的として泳ぎ続けていた。 海上の岩礁に括り付けたゴミ袋に追加される。そろそろ頃合いとみて口を縛り上げれば、糧を食いすぎた胃袋のようにビニール質が音を立てて膨れている。頃合いと見た女は袋を引っ張り陸に上がる。 本日の奉仕活動はこれにて終了。 女は満足そうに腕を振り、小さなガッツポーズを取る。 「これでより美しい海へと変わるでしょう」 はたして周囲一帯を掃除しただけで、したり顔で豪語するものを現実とするのはいつになるかもわからない。目視できる範囲を可能な限り拾い集めて、まずは達成感を享受せんと息を深く吸い込んだ。 明日もまた良き奉仕活動をしよう。 「ソラさん！　シスターソラ！」 「はい、只今こちらに。ただいまですわ、シスターユキ」 「またあなたはそんな破廉恥な。子供たちに見られたらどうするんですか！」 アウレア教会、礼拝堂の裏手。 外で遊び呆けている天使(こども)たちの眼を盗んでこっそり帰還したところ、同輩のシスターに見つかって絞られていた。 傍らに巨大な袋を持った水着姿の女。季節外れの不審者サンタとして扱われかけたものの、すんでのところで騒ぎにならずに済んだ。 ある種ほっとしたものの、安心したとは言い難いもので。 シスターユキはベールの端々から見える銀の髪を左右に揺らして肩を竦め、石畳の地面に座れと促した。 「茣蓙などは」 「これはお上や将軍、国王への告発ではありません、我等の父への告解なのです」 シスターソラは問題児である。自由奔放で気儘なくせ正義感が強い。悪を許さぬと断言せども、時折波止場のカジノを見学し、在り方を容認するなどその行動には一貫性がない。周囲からは黒い噂の絶えないシスターだと悪評が絶えない。 宗派には禁忌とされる行為がないからと、服装を除いては自由に動き回り、子供のように遊び呆けている。現にこうして戯れに冒険者の資格を獲得し、海へと潜る始末。 ソラに対して、シスターユキは厳しい。こうして度々神への懺悔を要求し——もとよりその行為に至る経緯は一般的に非がなく、普遍的であるが——祈りと共に神の書物を口添えする。 「また勝手に海に潜ったそうですね」 「……今回はゴミ拾いのためにですね」 「言い訳は必要ありません。シスターはもう少し落ち着いて行動すべきです」 呆れた、と言わんばかり。姿勢を直して正座となった彼女を見下ろす。 御心の儘に祈りを捧げ、傅く姿は正しくシスターの模範的姿である。 恐らく愛らしいのを選びたかったのだろう、ゴミ拾いと口にしながら機能性ゼロの水着を着用していることや、縁の広い帽子とラフなスタイルでなければ。益々シスターユキは頭を抱える。 「シスター、脚下照顧をご存知ですか」 「仏教、その中でも禅に据えられた言葉ですわ」 脚下照顧、あるいは照顧脚下。 人は他人を見て言い訳がましく言葉を並べたり、己を正当化すべく行動しやすい。その為に口や手が先に動くのは本能によるもの。 人が人たるべきは自制すること。さらに人を導くならば、他人のことを論ずるよりもまず自分の姿を見つめて顧みることが必要だと。 己が如何なる立場にあるかを今一度振り返り、辿ってきた足跡を追従する者の導とならんことを示すのが、迷える子羊を導くのにつながる。 つまるところ、足元に気を付け、自分を反省することが重要なのであるとユキは語る。 「良いですかシスター、曲がりなりにも冒険者として導くことをしたいなら、己の姿をまず恥じなさい」 「…………シスターユキ」 「良いですね」 「はい」 見下ろす態度に眼を細める挙動まで加えられ、伏し目がちに頷いて答えた。 脚下照顧は自己を顧みることで己を律し、戒める言葉である。 果たしてそれが、見下したまま説教を天高く放出するユキこそどうであろうか。その言葉を吐き出そうとしたところで良いか、と念押しされたものだから飲み込んでしまった。 そろそろ 「ヒトは難しいですわ」 「ソラ、聞こえていますからね」 「貴様は常に道化を甘んじる。小芝居は打つ必要もあるまいに。 　演劇の鑑賞者は俺以外におらん。採点も付け難い中身(だいほん)だ」 「えぇ、その通りです。ですがもうしばしお付き合いくださいませ。 　——我が神よ」 ステンドグラスから差し込んだ虹霓の人影の口元は、仮面のように笑っていた。

《海底探索協会》

《海底探索協会》

ソラは周辺を探索…………。

今回はアイテムを見つけることができなかった！

ソラはヒールを購入した。

ソラはTGシェルボックス(低)を購入した。

ソラはTGシェルボックス(低)を購入した。

ソラはSSシェルボックス(低)を購入した。

ソラはSSシェルボックス(低)を購入した。

ソラは敏捷を訓練した。
ソラは体力を訓練した。
ソラは体力を訓練した。
ソラは精神を訓練しようとしたが、EXPが足りなかった。
ソラは敏捷を訓練しようとしたが、EXPが足りなかった。

目的の決定