×月○日　えびの殻を剥く男 オークだか人魚だかよく分からん生き物を負かして、おれとトウジは無事に協会の試験を合格した。といってもあれは誰の目にも明らかな茶番劇だったが。 帰り道、景気づけに飯でも食いに行くかと誘ったら、トウジが珍しく断ってきた。 「好きな物を食べて帰るといい」って金渡してきたけど、そういう問題じゃねえだろ。小遣い貰って喜ぶ餓鬼と一緒にすんなっつうの。大体あいつは—— （以下数行、子供染みた罵倒が続いている） とにかく、そんなトウジの態度に腹を立てたおれは、何処ぞに寄っていくらしいあいつの後をつけてみたわけだ。 海が近いせいか、この辺りには下着と変わらん布面積の服を着たやつも多い。そういう輩にトウジが誘惑されないとも限らねえからな。うむ。これは正当な保護観察である。言葉の意味が微妙に違った気もするが、気持ちは字面の通りなんだから、まあいいだろう。 完璧な気配抹消術を駆使し、宿とは正反対の通りを抜けて黙々と目的地を目指すトウジの背を追いかけ、おれはその場所に辿り着いた。 初めは、市場か何かかと思った。海辺の街らしく、新鮮な魚介でも売ってるんだろうと。 けど、違った。そもそもそれは海の底に在ったし、市場でも、まして遺跡でもなく、何処からともなくえびが流れてくるばかりの工場だった。 無論あいつは買い物に来たわけでも、そこで誰かと待ち合わせていた訳でもなく、ベルトコンベアのようなものに向かってただ淡々と流れてくるえびの殻を剥いていた。 何故？ わからない。こっそり様子を見てみても、どいつもこいつもひたすらえびの殻を剥くばかりで会話のひとつも聞こえてこない。 結局おれは怖（書きかけの文字が黒く塗り潰されている）薄気味悪くなって、そのまま宿に帰ってしまった。 帰ったあとにトウジが少し心配になったけど、あいつはいつもと変わらない、涼しい顔をして戻ってきた。えびもかにも関係ないみたいな爽やかさで俺の頭を撫でて、顔色が良くない、具合でも悪いのかと顔を覗きこんでくる。 くそ！いちいち近えんだよ！さっきまでえび剥いてたくせに！えび剥いてたくせに！ 自分でも何を書きたいのか分からなくなってきたから今回はここで終わりにする。 ……なんか今日はやけに疲れた。 （後日の追記） あのえび剥きは一応金になるバイトらしい。 強請って買ったスキルストーンの分くらいはおれも稼ごうかと思ったが、1年働き続けても足りねえと分かって諦めた。 ごめんトウジ、おれ頑張って海賊の財宝とか探すから…… とりあえず明日から晩飯を一品減らすことにする。

	穏やかな海《セルリアン》

穏やかな波、暖かい水温。太陽の光を透かし、キラキラと輝く水中に、
光とともに舞うように鮮やかな熱帯魚達が珊瑚礁に集まる海域。

この世界の窓口である探索者協会からも程近いこの場所は、
色々なところから集まってきたバカンス目的の観光客や、
これから冒険に挑もうとするものたちで賑わっている。

比較的凶暴な生物もいない、穏やかな、冬でも温暖の海である。

遺跡探索

トワは、この世界の探索者としての一歩を踏み出した。
海底に沈む遺跡の探索——。

誰もがこの海の、この遺跡から冒険の一ページを刻み始める。
とはいえこの辺りはまだまだスタートライン。

もっとこの世界に眠る、謎や宝や未知の生物を目にしたいと願うなら、
このセルリアンの遺跡を抜け、さらなる海域を目指すといいだろう。

海はまだまだ遠く、広がっている。