船でこんな話を聴いた。 近々寄港予定の港町には、かなり大きなカジノがあって、それはそれは腕の立つディーラーがいるのだとか。 同じような航路を、反対の方向へ進んで行く船乗りに聴いたところによると、その船で最強との呼び声高いギャンブル好きが手も足も出ずに完敗したらしい。 どっかの世界で人気のテレビやらキネマやら完備の豪華客船に乗っているなら娯楽に事欠かないかもしれないが、（俺もンな船はでかい港の噂でしか聴いたことねーし）マリア・クレスト号には豪華な娯楽設備は乏しい。 自然と暇になった時の遊び道具は、新人船乗りかカードゲーム、それか他所の船から仕入れた噂話ってトコロかな。 んで、今日は海に落ちたらエライことになるフィンが遊びに来てないこともあって、自由時間を持て余しがちな俺も噂話に首を突っ込むことにした。 「へー、凄腕のディーラーに誰か挑む気か？」 「何だエルマーも気になるのか？　国によっちゃカジノ立ち入り禁止のトシじゃねーか」 「うっせ、国によっちゃドレスコードに引っ掛かってジョンだって門前払いだろ」 「はっはっは、違いねぇ！」 「けっ、お上品なお偉いさんに接待プレイするようなのはカジノじゃねーっての」 「何だよお前カジノでいやな事でもあったのか？」 「あーわかったすってんてんにされたんだろ」 「ちげーよ！」 ジョンはむすっとして、肩に乗せられた手を払うが、船乗り仲間はにやにや。 俺から見てもこれは「あーすったんだなあ」って思うぞ。 へそ曲げてるジョンを宥めるのは任せて、俺は噂を持ってきた張本人らしきビルの方へ。 「んで？　ビルは行くのか、そのカジノ」 「どうすっかねー、オレあんまり勝負運強くないんだよなあ。 　ほら、お天気お嬢さんとカードゲームしたときもボロ負けしたしなあ」 「いやフィンはビギナーズラックだけで全勝するから比べない方がいいぞ」 「あの嬢ちゃんはなあ……ブラックジャックで毎回初手にナチュラル21引いてたの見て笑うしかなかったって」 「オレも見た見た。ポーカーだったんだが、初手でファイブカードかロイヤルフラッシュ引くからな、外野は嬢ちゃんが何のスートでロイヤルフラッシュ出すか賭ける方が盛り上がっちまってさあ」 「こっちなんか七並べでな、全スートの5～9を全部嬢ちゃんが持ってたことあるぞ。最終的に嬢ちゃんが早く自分の置きたい列作ってくれるように祈る儀式みたいになってた」 おい思った以上にフィンにボロ負けしてる奴ら多いな！？ 「つってもお天気お嬢さんは、チップよりクッキーだからなあ。負けまくっても財布はほとんど痛まねーし、緊張感は欠けるかもな」 「言うなって。本場のカジノ並みに金かけてたら、いくらあっても全部嬢ちゃんに持ってかれちまう」 負けても勝ってもカードやってりゃ楽しい連中は、気軽に笑っているが、ビルの一言で凍りつく事になる。 「なんかの間違いで嬢ちゃんがカジノに入ったら、噂の凄腕ディーラーみたいに言われるんだろうなあ」 ………………… ………… …… 「……なあビル、噂のディーラーって子供じゃないよな……？」 「いや、子供だって話は聴いてないが……」 「エルマー、港に着いたらとりあえずカジノ覗きに行ってくれるか？」 「奇遇だな。俺もそうした方がいい気がしてた」

	穏やかな海《セルリアン》

穏やかな波、暖かい水温。太陽の光を透かし、キラキラと輝く水中に、
光とともに舞うように鮮やかな熱帯魚達が珊瑚礁に集まる海域。

この世界の窓口である探索者協会からも程近いこの場所は、
色々なところから集まってきたバカンス目的の観光客や、
これから冒険に挑もうとするものたちで賑わっている。

比較的凶暴な生物もいない、穏やかな、冬でも温暖の海である。

遺跡探索

エルマーは、この世界の探索者としての一歩を踏み出した。
海底に沈む遺跡の探索——。

誰もがこの海の、この遺跡から冒険の一ページを刻み始める。
とはいえこの辺りはまだまだスタートライン。

もっとこの世界に眠る、謎や宝や未知の生物を目にしたいと願うなら、
このセルリアンの遺跡を抜け、さらなる海域を目指すといいだろう。

海はまだまだ遠く、広がっている。