第2回　スペキュレイション・ゲーム

穏やかな波が浜辺を撫でるなか、セルリアンに浮かぶ珊瑚礁。 バリアリーフに囲まれた島の上に、その白い小さなカフェはあった。 探索者協会へのアクセスもよく、まばらではあるが今日も観光客の姿が見える。 テラス席にいる二人の女性に向かって、携帯を片手にラティスは手を振った。

	ラティス
	「待たせたかしら？　最近はデータ整理が追い付かなくて」

	ヘイゼル
	「待ち合わせは1時間前なんだけど。 　15分前行動していた部下に向かって『待たせた？』って聞くとは思わなかったわ」

	ライラック
	「大丈夫ですよ、年末進行ですからね。承知しています」

	ヘイゼル
	「まぁ、あんた普段は仕事早いタイプだしね？　どうせ無茶振りされたんでしょ？？」

	ラティス
	「1週間無休のスケジュールだったわ。 　まだ海に出始めたばかりなのに、詳細データを出せと言われて整合性を取っていたとこ」

	ヘイゼル
	「それ元データは大丈夫なの……？」

	ヘイゼル
	「ところでさ、こっちは戦闘データの分析してたわけよ。 　現状のところ活動時間が短すぎて、結論だけざっくり言うと 　スキルストーンを増やさないとお話にならないんだよね」

	ライラック
	「探索者協会からの報酬も増額されましたし、 　まずはスキルストーンを買い足してはどうでしょう？」

	ラティス
	「うーん、そこも悩むわよね。 　シェルボックスを使えば多くのスキルストーンが手に入るんだけど」

	ライラック
	「ランダムなんですよねぇ……個人的にはそこが気になります……」

	ヘイゼル
	「ランダムでもなんでもさ、今は増やすのが先じゃない？ 　どんな道具でも器用貧乏に使いこなすのが、ラティスの持ち味ではあるんだし」

	ラティス
	「どうしてここで貶されないといけないのかしら。 　貝殻の数が限られているから、それしか方法はないと思うけど」

	ライラック
	「しかし何故ランダムな仕様なんでしょうか……。 　今時は福袋でさえ、中身が分からないと買わないというのに」

	ラティス
	「在庫整理と売上を伸ばすためでしょ。 　くじは期待値まで買おうとすると莫大な額がかかるもの」

	ヘイゼル
	「ちなみにアクロトインテントでは天井が決まっているよね、法律で。 　これも法律ができるまでひと悶着あったっけか。 　そういやライラック、弟さんの奴はもう大丈夫なの？」

	ライラック
	「ええ。私の携帯で課金していた件ですが、 　そもそも指紋認証を怠ったプラットフォーム側の責任もありまして 　年齢制限のあるゲームだったこともあり、無事に解決しました」

	ヘイゼル
	「いろいろ問題がありそうな内容だけど……。 　相手があんたじゃ、言い逃れはできないやね。 　リアルで会えるなら、『共感透視』は伊達じゃない」

	ライラック
	「少し視えたものをお話ししましたら、スムーズに和解が進みました」

	ラティス
	「メーカーも嫌でしょうね、こういう特殊能力を持つ保護者……」

	ヘイゼル
	「とりあえず、今はシェルボックスでスキル不足はしのぐしかないね。 　あとこのTP？　っていうのも足りない。ぜんっぜん足りない」

	ラティス
	「なんせ融通聞かせようと思ったら、そこかしこで必要になるらしいわ。 　完全に使い切るのは避けたいけど、奪われたら元も子もない」

	ヘイゼル
	「奪われるの……？　もしそうなら嫌だわそれ……」

	ラティス
	「現状では何とも言えないわね。 　ともかく浪費を避けるために、ミスだけはきちんと防がないと」

	ヘイゼル
	「……あれ？　その割にはわりと強引にスキルストーンを追加してない？」

	ラティス
	「どんな資産よりも時間の方が大事なの。 　時間を短縮するためならば、どんな労力も惜しまないわ」

	ライラック
	「チーフ、携帯が震えていますよ。 　おそらくボスからの年末進行の連絡ですから、お互い腹をくくりましょう」

To be continued......

	穏やかな海《セルリアン》

穏やかな波、暖かい水温。太陽の光を透かし、キラキラと輝く水中に、
光とともに舞うように鮮やかな熱帯魚達が珊瑚礁に集まる海域。

この世界の窓口である探索者協会からも程近いこの場所は、
色々なところから集まってきたバカンス目的の観光客や、
これから冒険に挑もうとするものたちで賑わっている。

比較的凶暴な生物もいない、穏やかな、冬でも温暖の海である。

遺跡探索

ラティスは、この世界の探索者としての一歩を踏み出した。
海底に沈む遺跡の探索——。

誰もがこの海の、この遺跡から冒険の一ページを刻み始める。
とはいえこの辺りはまだまだスタートライン。

もっとこの世界に眠る、謎や宝や未知の生物を目にしたいと願うなら、
このセルリアンの遺跡を抜け、さらなる海域を目指すといいだろう。

海はまだまだ遠く、広がっている。