陣のことを語ったのは半分賭けだったが、
それは半分があたって、半分はあてが外れた。

敵わない。
彼女は、いつもそうだ。
彼の想定した答えの外を答えて、彼の裏を暴き出す。


そこまで聞いて、
なんでこんなもんつけようって気になるんだよ。

言いかけた言葉を飲み込み、代わりに軽口でかぶせる。

そういえば見え透いた嘘を最後まで押し通すのはたぶん黄譲りだな、と
いくらかぶりに元頭領が脳裏をよぎった。

他の方法、なんて
また何をしでかすか分からないから、そう付け加えて釘を刺す。
それが都合のいい側面だけを語ったものであったとしても、事実には変わりない。

彼女には嘘よりもきっと真実のほうが強い抑制力を持つ。
彼の知っている彼女は、そういうところがいじらしいくらい生真面目だから。

そんな彼女がそんなことをいうものだから、
つい下世話な軽口が零れる。

それはきっとそれくらい、彼女が彼女だからなの・・・だろう。
懐かしいような、
それでいてなぜか、
どこか、
胸が締め付けられるような。


きっとそれは、自分が自覚してはいけない何かで











終焉を告げるように響く鐘の音は
彼の思考を今一度あるべき位置へ引き戻す。

彼女は、破顔する。
それでもなお弛まない黒い瞳は、
レンズに隔てられた彼の闇の棲家をさえ見透かしているようだった。


きっと自分は半分、知っていた。
彼女ならこう答えるであろうことを。
それでも、そう答えるであろうと信じることを恐れていたのかもしれない。


　　何故、

　　なんで、あんたは——



けれど喉元まで出かかった言葉は、
すぐに続いただけど、という言葉にかき消される。

救急箱を持って、席を立つ。

ほんのすぐ側の机の引き出しを開けるため、顔は後ろを向く。

木の擦れる音や、薬箱がたてるガラスのかち合う音が、
彼のつぶやくような声を少なかれ、聞き取りにくいものにした。



彼女は、やさしい。

爪に捉えていながら、それでも彼に道を残している。

それに、と告げた手が、
ぱたんとことさら軽快に引き出しを閉じる。

そうだ。
自分は行くべきなのだ。

きっと彼女は、優しすぎるから——

でないとさすがに、浮かばれねえわｗ

男は振り向いた。
笑みの仮面が、すっかり己の顔をすっかり覆ったことを確かめたうえで。