かちり、とかみ合った。

「わたし」という人間が、
「わたし」という人間に。

すべてが、
すべてに。


あらゆるものが、
あるがままに。


「わたし」から切り離されていた「わたし」が帰ってきたような感覚。
言葉で説明しても、多分うまく伝わらないだろう。
「彼女」としか認識できなかった過去が、「自分」だと認識できる。


そのうえで、「わたし」は変化したと感じる。
記憶をなくして生きていたこの日々が、新鮮な風を吹き込んだ。


咲良と名乗るのが当たり前なようであり、気恥ずかしくもあり。
不思議な感覚。


誰かと再会した時に、どんな気持ちになるんだろうか。
自分でもよくわからない。


身体は先の戦闘でひどく疲れ、あちこちぼろぼろだ。
それでも、動ける。
「誰かと再会した時」の気持ちは……どうなるのだろう。


まずは、再会しなくては。
行かなければいけない。

言いたいことだけ言って、消えてしまった彼に。

お父さん。
お母さん。
もう一度、口の中でそんな風に呼んでみる。


——あの人たちの娘だもの、わたしは。
これくらいで、へこたれたりしない。

声は淡々と。
それでも握られた手から、強張ったような微かな振動が伝わる。

氷のように、冷たい手。

額が、離れる。

と

同時に手を引いて、彼女を抱きすくめる。

肩越しに落ちた言葉は、あまりにも微かで
きつい香水を押し返すように立ち上る、むせ返るような血の臭い
煮え湯のように、脇腹が熱い。

彼女がその違和感に気づく前に、目の前が赤い閃光に包まれる。

光が戻った頃には手からは”それ”が奪われ
黒いドレスは、腹のあたりがじっとりと濡れていた。
触れればそれが、赤黒い色をしていることに気づいただろう。

そこに彼が、もういなくなっていることにも。