「神様の戯れ‥だった、ということかな」

結果的にはそういう事だったのかなと、竜は思う。
そして思うが儘を呟いた言葉は、誰にも聞かれるでもなく、響いて、消えた。

ぼくは、「イース」で在りつづけた。

望まれるが侭に動いた。
前に立って、敵を撃ち、撃たれ。
どれくらいを、ぼくはイースとして過ごしただろうか。
求められる侭に、ずっと、ずっと演じ続けてきた。
ただひたすらに、力としてありつづけた。

——けれどそれは、本当に求められた「イース」では、なかったのかもしれないと思う。

自明のことではあった。
本当に求められた「イース」は、力を振るうだけの、駒ではなくて。
言葉を交わして、約束を果たそうとする、一頭の竜だったのだろう。

‥イースであった頃は、出来ていたんだけれど。
どんな時でも一緒だったあの子がいなくなって、ぼくは、やはりイースでは、いられなかった。

「トモダチ」も。
「守るべきヒト」も。

もう、傍らにはいない。
他ならぬぼくが、求めなくなってしまったから。

「‥‥‥」

ともあれ——
それでも辛うじて繋がっていた縁は、そろそろ、終わりを告げようとしている。

逸れたのか、或いは、置いて行かれたのか。
‥どちらかは判らないが、終わると云うのなら、それを奇貨にするしかないだろう。
そもそもぼくは、此処での縁に報いる為に、此処に居たのだ。

名前を呟く。
声を掛けてくれる、名前を読んで呉れる者はいない。

名前を呟く。
傍を舞い、からからと笑い、時には巨躯を並べた者もいない。

お別れを云う事ができなかったなと思う。
けれども、それは。
心を鎖して、ただ、駒であることに甘んじたぼく自身が招いた、結果だ。
淋しいけれど、甘んじて受けなくてはいけない。



名前を呟く。
幼少を共に育ち、『一緒に居た』者も、いない。

薄っすらと刃についたを血液を散らすように得物を振り払う……。