ただただ対応するだけの戦闘。
未だ不慣れな身体と感覚の扱いは、これまでと比べるといくらか、疲労が深い。
勿論、此処で暫くを眠り続ける原因となったものの禍根も深くあるのだろうけれど。

‥そういう塩梅だから当たり前と云えば当たり前ではあるのだが、今日は昨日よりもいくらか身体がかるい。
はじめは、這うように。
けれど、水から滑り出てきて、立ち上がってしまえばこの四肢は身体をがっちりと支える。
——すぐさま最高速に至るような、普段の走りはまだ、出来なさそうだけれど。
それでもあの日のように、膝が折れてしまったりはしない。

ふら、と立ち上がった先で——足元にあるものや隣するものの気配を汲み取れるように精神を研ぐ。
研ぎ澄ませること自体は、それほど難しい事でもない。
いまぼくらは、ただ、ひたすらの静寂の中に在る。
己が踏みしめる土の音も、風が吹いて駆け抜ける音もしない。

ただ、それらがそこにあるのだ、という事は、なんとなく感じられるようになってきた。
尤も——それらは基本的に、一頭の"竜"に意識を傾けてくるような小さい存在ではない。
此方に寄ってくるエンブリオやヒト、或いはその他の生き物のように、意識や感情をぶつけては来ない。
故に本当に至近距離のものでしか、どうやら汲み上げる事は出来ないみたいだ。

踏みしめるもの、傍らにあるもの。
触れてしまうまで感じる事のできないもの。

そして。

遠く、遠く。
恐らく目でも鼻でも、勿論耳でも拾い上げる事の出来ないほど遥か遥か彼方。

誰よりも誰よりも近い距離に在った感覚を、拾い上げた。
抱いている感情は——駄目だ。
此処に居るぼくにはっきりと向けられたものではない。散漫としたそれを、拾う芸当など出来ない。

けれど、けれど！
この感じは、間違いない。



ぼくらが今、会いたくて堪らないトモダチ。



（フョードル‥！！）



息と一緒に吐き出した積もりの声は。
この耳を揺らさない。発せたかどうか、判らない——

ごぶり、ごぼりと小さなエンブリオから泥が溢れ、子供程度の大きさの泥人形に変異する。

微かに、囁くような声。けれど、酷く掠れたそれはとても言葉足りえず、くぐもった響きだけを残して消えた。

首を巡らせる。何度も、何度も、何度も。
それでも探し物を見つけられない竜は、やがて身を翻して駆け去っていった。
探し物を捜しに、探し物から遠ざかっていった。