彼は荷物を下し、高台からメルンテーゼを眺めた。
ここへ訪れるのは実に8年ぶりであったが、別段以前と変わって見えるところはなかった。
しいて言うなら、ここまで登ってくる途中に、武器を持った人々を幾人か見かけたことと、「メルンテーゼの花」と謳われていたあの赤い花を1輪も見なかったことくらいだろうか。

彼は旅人。
同じ世界に住み続けることはないし、普段なら、一度離れた世界に戻ってくることもない。
しかし、メルンテーゼは特別だった。
ここは彼が初めて自分の世界から出て旅に訪れた世界であり、それから初めて旅の感動を覚えた世界であった。
活動的で外向的な彼は、8年間ですでに数えきれないほど多くの世界を渡り歩き、あちこちの世界で友達ができた。
だが、記念すべき彼の初めての友達は、このメルンテーゼでできたのだ。

　「うん、さすがに地形も変わってないな。」
記憶力には自信があった。
昔の記憶を頼りに、自分が向かうべき場所に目星を付ける。
"またここで会おうよ、ジャック。"
別れるとき、内気な彼女は確かにそう言ってくれた。
「またあの花畑で遊びたいもんだ。メープル、元気にしてたらいいんだけど。」
彼はそう言って、旧友との再会の約束を果たすべく、軽い足取りでその場を後にした。

続く言葉に思わず目を見開いて