戦力を整え、リナ達は一時撤退した研究棟に舞い戻っていた。
以前感じた嫌な予感に耐えながら進んで行くと…如何にも研究施設と言わんばかりに設備の整った、大きな部屋に辿り着く。


「おやおや？ここまではかなり複雑な迷路にしていた筈なのですがねぇ・・・」

その部屋の中核であろう装置の横には、白衣に身を包み、鉈と見間違うばかりの大きな赤いメスを肩に担いだ男がいた。

「私はこの棟を任されているフォルシュといいます。どうやらファルマ君もやられてしまった様子・・・・・
出来損ないのサタンでは役に立たなかったようですねぇ。」

（………出来損ない？）

リナの疑念をよそに、フォルシュと名乗った男は横の機械を素早く操作する。
すると、床が数カ所開いていき、そしてその穴から檻が現れた。

「………！」

檻の中にいるものを見たエスカーラの顔が恐怖と嫌悪感に引きつる。
それは、エンブリオのようで、似て非なるものだった。

「ふふふ、・・・可愛いでしょう？これらは皆、クローンエンブリオ。私の研究の成果。パラダイス様の存在維持のための存在です。」

その言葉を聞いて、フロルとルシェーナも表情を曇らせる。
どうやら、この施設ではエンブリオの複製の手段の研究が行われていたらしい。「出来損ない」というフォルシュの言葉からすると、以前ファルマが呼び出していたサタンもまた、関連する研究で生み出された、エンブリオに何らかの手が加えられた存在だったのだろう。
この世界のエンブリオとして生まれたエスカーラとフロル、そして、この世界ではエンブリオと同等の存在として定義されるルシェーナもまた、実験に使われたエンブリオ達の犠牲に思いを巡らせずにはいられないようだ。

　フォルシュは敵方のエンブリオ達の様子がまるで目に入っていないかのように、平然と別の装置の操作を始める。
そして…その操作が終わると、クローンエンブリオ達の入った檻が、ガシャン、と音を立てて開き始めた。

「・・・少し、実験に付き合っていただけますか？」

そのフォルシュの言葉に呼応するように、檻から開放されたクローンエンブリオ達がゆっくりとこちらに近づいてきた。

「………みんなは、いつも通り私に力を貸してくれればいいから」

異常とも思える眼前の光景に萎縮していたイーラ以外のエンブリオ達に、リナはそう声をかける。

「あなた達の想いも…力と一緒に、全部あいつにぶつけてやるから！」

そう言って、リナは戦闘態勢に入った。