リナは引き続き山奥の小さな屋敷の調査を進めたが、めぼしい情報は無かった。
見た目通り、この屋敷は放棄されてから随分と時間が経っているらしい。王位継承前後の時期の書簡や資料などは見つからなかった。

（外れ、なのかしら…？ひっそりしてるからこそ、この状況を解き明かすヒントになるものがあると思ったのに）

若干の徒労感を覚えつつ、周辺の探索を終えたリナは、残った最奥の大部屋の扉の前に立った。

（あとは、扉も大きくて無駄に意味ありげなこの部屋だけね…
肩すかしかもしれないけど、勇んで突っ込んでヤバいのがいたらまずいし）

そう、様子を伺っているところにちきさにがやって来る。ちきさにもこの部屋はまだ調べていない旨を確認した後、２人でこの部屋の探索に当たる事にし、慎重に扉を押した。

　扉を押し開けると、まずは天蓋付きのベッドの上部が視界に入ってきた。
屋敷全体は廃墟然としているのにも関わらず、ベッドの天蓋はしっかりしており、少なくとも汚らしさは感じられない。
そして、そのベッドの前にはスーツ姿の男女が何かを守るかのように、微動だにせず控えていた。直立する男女の間から、寝台が見える。そこには、ウェーブがかった若菜色の髪をした、幼い少女が横になっていた。

「・・・ッ！！」

リナ達の姿を確認したスーツ姿の２人が、顔に緊張の色を走らせつつとっさに槍を構える。リナも臨戦態勢に入ろうとした…その時だった。

「・・・・・やめなさい、ロメオ、ジュリエッタ。」

スーツ姿の２人の更に奥から制止の声がかかる。リナが声のした方に視線を向けると、寝台の上の少女が身を起こしていた。

「し、しかし・・・オリヴィア姫！！」

女の方—恐らくジュリエッタであろう—が抗弁しようとするが、姫と呼ばれた少女は穏やかに女を止めた。

「争う相手ではありません。」

そう言って、少女は敵意の無い瞳でリナ達の方を見つめる。そして、再度ゆっくりと口を開いた。

「・・・・・見定めるべき、相手です。」

そう少女が口にした瞬間、リナ達とスーツ姿の２人の間に、白い影が立ちはだかった。
純白に輝く鎧兜に、白く美しい髪。そして、槍。
リナが元いた世界の北の果てで育まれたという神話に登場する、戦乙女を思わせる姿がそこにあった。

（…姫…でも、私達一揆衆に敵意が無いってことは新王の娘じゃなさそうね）

「『見定める』…ね。いいわ、乗ってあげましょう。
この世界の王権の周りで起こってることにお節介を焼く権利を認めてもらうわよ、王女殿下！」

そう高らかに宣言して、リナは改めて臨戦態勢に入った。

はぁ　と溜息。