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一揆が行われている王城周辺から遠く離れた森の中で微かな異変が起こっていた。

最寄りの人里からも歩いて数日の距離にある、名も無き森林の中心部。
まるで樹々がそこを見守るようにぽっかりと開けた花畑の中心に風が渦巻いた。
その渦に吸い取られる様に華々から微かに光る粒子が集まり、瞬く。
光る粒子だったそれは人の姿に変わっていた。

その物は朱い布に炎のような白い模様が描かれた和服を着ていた。
宙に現れたその者は音もなくゆったりと後ろで一括りにした黒髪をなびかせながら着地する。
ゆっくりと黒い瞳を開き、腰に下げた刀の柄に片手を置いた。

「漸く帰って来れたな、何処だぁわかんねぇが、間違い無さそうじゃねぇか」

その者は満足気な顔を見せ、足元の華に目をやる。
その華は紅い華だった。

「おう、小さいが天然のネクター群生地か、こりゃ丁度良いな、少しばかり失敬するぜ」

足元に咲くその華を２，３摘み取り、一つを賽子の簪の横に挿す。

「さぁて、取り敢えずは足が必要だな。適当なヤツが近くにいりゃ良いんだが」

足元に広がる華々を踏まないように、その者は其処から離れた。

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背後から近付く気配は、男には簡単に感じ取れるものであっただろう。
肌を露出しない衣服の下、まだ砂地で襲われた時の傷は癒えぬまま。
不規則な長さと大きさの足音が、それを物語っている。

小さな声で遠慮がちにかけられた声は、途中息をのむようにして途切れた。
もし男が振り向くことがあれば、凡そ人間らしくない造形をした男の姿に目を丸くする少女の姿が目に入ったかもしれない。
つい先程まで手にあった布の包みは、彼と行動を共にする男に渡したばかりであった。

言葉が弱々しいのは彼の容姿に声をあげてしまったことに対する罪悪めいた気持ちもあっただろう。
男が振り向こうが少女を無視しようが、少女はジヴィーテ家に仕える者である事を男に告げ、「チセと申します。」と名を名乗った。