（紫鯤と呼ばれているその存在は、ぼうっとした顔で、一枚の紙切れを眺めている）
（紙切れにはこんな事が書かれている）



『実験0204「意識の檻」までの経緯について』

境戸家は様々な魔術に手を出していた。
ある時から、異界から何かを呼び出す術を中心に研究するようになった。境戸家の者は皆、老若男女揃って競い合うように、研究に没頭した。
そんな中、まだ半人前であった本家の一人娘が「対象アルファ」を呼び出してしまったのは、殆ど事故のようなものだった。
彼女の中に「核」を据えたそいつは決まった形も、意識も、知性も持たないように見えた。
それを生物ではなく「形のない魔力の塊」として捉える者もいたが、境戸家の能力ではその正確な正体を掴むことはできなかった。
やがて対象アルファが、呪文によって名や形を与えることで使役できる存在だと分かると、境戸家は躍起になってそれの研究に取り組んだ。
娘を使って何度も実験を繰り返し、ある程度のノウハウを蓄えたところで敵対勢力との抗争に利用するようになった。対象アルファはかなりの戦果を挙げ、これにより境戸家は更にそいつの研究に没頭した。……一族に嫌気がさした娘が、胎内の対象アルファごと出奔してからも。
対象アルファを諦めきれなかった境戸家は、次を求めて試行錯誤を重ねた。
そしてついに、次なる研究対象「対象0204」を手にすることに成功したのだった。


詳細と『意識の檻』計画については、また次回。


（文章はここで終わっている）

じりじりと仲間の後ろに移動しつつ

男は何かぶつぶつと独り言を言っていたが、やがて一つ深呼吸をし、声を張り上げた。

声色は明るいが、その声にはどこか不自然さがある。

木で作られた台に乗って、踊りながら歌っている女の子がいる
１曲歌い終わると、ちらほらいる観客に向かって話しかけ始めた