ちょっと、妙な夢を見た。
　恐ろしく狭く、真っ暗な場所に閉じ込められていた。一切の音も光も無い闇の中で、五感はすっかり麻痺しきってしまって、自分がどんな体勢でいるのかさえ分からなかった。手足が、頭が、体が、すっかり暗がりに溶けてしまったような不確かさ。
　私を閉じ込めている壁は丸みを帯びていた。どうやら、私は球体の中にいるらしい。
　壁の向こうに無数の気配を感じる。みんなの鼓動。みんなもきっと私のように球体につめられ、この真っ暗闇の中に放り込まれているのだろう。私の球体のすぐ側に他の球体が複数接していることが（何故か）私には分かった。
　私達はこの丸い檻ごと泡のように集まって、闇と不安に押し潰されないよう必死に踏ん張っていた。
　みんなも、私も、待っていた。彼らがいつか、この泡から出してくれる日を。




（……うーん、いつにも増して意味不明な夢だなあ）

　起きて、身支度をしながら考える。
　そもそも、みんなって誰なんだ。イルマやガラちゃんやニーヨルではない、他の——それもとても沢山の、誰か達だったのは分かるんだけど。

（あれかな、夢ってしょっちゅう全然知らない人が「既に知り合ってる」って前提で出てくるけど、そう言うのだったのかな……）

　私達が誰を待っていたのかもさっぱりだ。
　自分ではあんまり自覚は無いけれど、思ったより疲れているのかも知れない。始終真っ暗で何も見えず、視覚以外の感覚も極めて鈍くなっていたのに、私はやたらと疲労感を感じていた。全然休めた気がしない。

「とりあえず怖い夢……だったのかな？　カメリアちゃんはどう思う？」

　足元で丸くなっているカメリアに話しかけてみる。どうにも気分が落ち着かなかったので、夢の内容を一方的に彼女に聞かせていた。
　カメリアはちょっとだけ首を傾げてから、ふるふると横に振った。相変わらず喋らないが、彼女にもこの夢が何なのかは分からないようだ。それもそうか。

『おいおい、滑稽な奴だな』

　いきなり頭の上から降ってきた声に視線を上げる。
　ナイトスピリットのヒヤシンス（こう見えて女性らしい）が、呆れた様子で私を見ていた。

「滑稽って、何が」
『四六時中そんな窮屈なカッコでいるからだろ。妙な夢も見るさ』

　私がカメリアに聞かせていた話を聞いていたらしい。それにしても（態度が悪いのは分かっていたけど）ご挨拶な奴だ。

「何言ってんの、別に窮屈じゃないよ」
『いやいや、窮屈だろソレ』
「アクセサリーのこと？　昔からある程度は着けたまま寝てるし、慣れてるさ。コレが原因とは思えないんだけど」
『そーいう訳じゃねーんだが……』

　ヒヤシンスの顔が、いきなりぐいっと近付いてきた。

『なあ紫鯤、お前、自覚ねーの？』
「……は？」

　本当に、訳が分からなかった。一体何の話なんだろうか。
　私が目を白黒させているのを見て、ヒヤシンスは妙な顔をした。馬鹿にしたような、それでいて同情しているような、込み入った表情をした。

『あー、なるほど。分かんねーならいいや』
「え？　え？　何？　何なんだよ？」
『まあテキトーに頑張れ。これ以上つっつくとカメリアに怒られちまうしな』

　そう言って、音もなくヒヤシンスは私から離れて行った。
　ほぼ同時にカメリアが、私の体をよじ登って肩に上がってきた。ヒヤシンスが去った方角を睨みつけている。

「……カメリアちゃん？　どうしたの？」

　火蜥蜴の頭を撫でてやりながら尋ねたが、無口な彼女は何も答えなかった。