最近、コノエの様子がおかしい。おかしいといっても態度に現れているわけでもないけれど。
いつもはそれこそ凪の魔力が、今は微かに波を立てている。そんな感じがした。
例えるならほんの僅かだけ開いた蛇口から時折一滴だけ水が落ちる。たったそれだけの変化。
七百年一緒に居てこんなことは今までになかったと思う。最初、まだ安定してない頃は除いて。
家事も戦闘も何の変わりもなくこなしているから支障はないけれど。何かしらの不調であれば解消したほうがいいと思う。
ああでも、普段から無趣味だから悩むのを趣味にしてもいいのかもしれない。

「コノエ、口を開けて」

なんでしょう、と給仕に徹していた彼が目で問いかける。しかし素直に口を開いた。
そこにそっと新作のラムネ菓子を詰めてやる。今の今まで私が独り食べていたコノエ手製のお菓子。

「——……ありがとうございます」

口の中のラムネを全て溶かして飲み込んでから彼は答えた。
さざ波の音がする。

「一緒に食べたって気にしないのに」
「外食であればそうします」

薄く微笑んだコノエにそっと体を預けた。
用心棒とメイドと愛人を兼ねた彼の負担を少しくらい減らせないものかと。
今は凪いだ水面を思って目を閉じた。

コノエの言葉も有り、少し考え込む。
もしかしたら、人は自然と馴染めず、一人で生きていけずに滅ぶ日が来るのかもしれない。
でも、それを回避する為に、自分は何を学べばいいのかな……そんな思いが頭をよぎる──答えは出そうにも無い。

　　　　　　男はそっと指輪に口づけた。

　　　　　　男はそっと指輪に口づけた。