「たのしいは、無益か？」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　———— 模範解答




　夜の間に冷やされた風が心地良い。やがて生ぬるく変わってしまうが、だからこそ余計に気持ちがいい。
　この度重なる想定外の事態すらなければ。

「はー……」

　何度目か解らない溜息を聞きとがめて女王陛下が苦笑した。少し先には困惑した様子の青年とそれに絡む中年。
　この二人は『余計』なほうだ。これの手前に行くつもりだったが奥まで来すぎてしまったらしい。
　それはまあ、いいだろう。いずれ戦う。万全の状態ではないが、全力を尽くせばいいだけだ。
　しかし。

「まあまあ。後で目一杯反省させればいいじゃない」

　想定外の事態に会議をしているエレインとチドリ。少し離れて女王陛下と私。エンブリオたちは隠形しているため不在。それだけだ。
　それだけであるのが問題なのだ。

「勝つにしろ負けるにしろ、問題は山積みです」

　『不足』はクロム。合流の手筈は余程の懸念事項がない限り、私が勧誘する形をとっている。しかし今回はある事情により呼び主を別に定め、更に変更したため手続きを怠ったらしい。
　未だ中年に絡まれている青年——イルヤナと言うらしい——を倒すは兎にも角にも手数が要る。それはもう大量に。
　再度、溜息。負ければネクターが散り落ちて危険が増す。勝てばクロムはイルヤナを倒せなくなり、つまるとこ収入が減る。勝率を聞かれれば正直自信がない。

「もー……大丈夫よ。ね？」

　慰めるように背中を叩かれる。襲われる危険を減らすために他者を惹きつける要素を排除したい。私の感情は女王陛下が誰よりも理解していた。
　私が居る限り女王陛下に危害を加えることは不可能だ。不可能だが、襲われたという事実は残る。それが不満だ。

「結末次第です」

　しかつめらしく応えた私に、女王陛下は楽しそうに笑う。
　その笑顔にはクロムの末路を想像した故のものも含まれていた。

　　　　　　男はそっと指輪に口づけた。