砂の大地の暑さを逃れて、険しい山の岩陰に身を寄せる。
たった数日前そうしたように……けれど今度は、ひとりで。

私はどうして、こんなことをしているのだろう。
私の足取りはおそらく、半ば目的を忘れたような彷徨に見えるはずだ。
王城を目指さなければいけない、本当は。……わかっている。
それでも私は、先に進むことが怖い。

先に進めば、どうしたってひとを相手にしなければならないのだろう。
自分が一人で他人を相手に立ち向かう姿を、私自身、思い描くこともままならない。
川の畔、兵士と戦った記憶は、今もまぶたの裏に鮮やかだ。

奪いたくないと言うくちびると、先へ進もうとする四肢の齟齬。

生きること、先へ進むこと、それ自体が奪うことと直結している。
この世界だけでなく、故郷でも、きっとそうだった。
そう知っていても足を止められないのは、生きたいという願いでさえなく、恐怖のためだ。
私は変わることが怖い。
死ぬことそれ自体よりも、死によって、あるいはそこに近づくことによって変質するであろう何かが。

だって、私が変わってしまったら。何かが、ほんの少しでも、ずれてしまったら。
そうしたら私の中にいる父の幻影が、あっという間に、私という外殻を食い破って立ち現れるような気が、する。
それは何よりも厭うべきことだ。死なんかよりも、ずっと。

かあさんを奪い去った父の腕。
守れなかった私の腕。
夜の夢の中でその姿は重なって、同化して、罪のしるしだけがくっきりと残る。
だが目覚めれば、父の腕にしるしはない。

奪った罪、守れなかった罪。
父以外に知るものもない、この腕に焼き付けられた二人分の罪。
焼印の示す証の裏に、多くが渦巻いて私を閉ざしている。
弱さの罪、弱くても立ち上がる勇気さえなかった罪。
罪が罪を呼んで、もう、赦しを乞うことさえもが恐ろしい。