「それじゃ、結局、呪いの解き方は分からなかったの？」

「うーん、最後の最後の方で言葉を濁すような言い方をしたから、何か心あたりがある、かもしれない？」

　一日の終わり、何かがあればシズカとセレスと俺の3人で雑談のようにいわゆる「ほう・れん・そう」をしている。
　今日はマリーといろいろあったので、シズカとその話をしていた。セレスは用事があるとかで不在だ。

「言いよどむってことは、難しいのよねきっと」

「俺に呪いをかけた剣に言うこと聞かせるとか？ナイトスピリットとしての主導権は現在マリーが持ってるとして、
　流石にどれこれしろと命令まではできないといったところなのかな」

「そもそも、主導権を握るって、どういうこと？」

「それは……まぁ、エンブリオとして動くときにどちらの意思や人格が表に出てくるかってことじゃないか？」

「ねぇ、マリーは剣が暴れたがってるとかそういうことは言ってた？主導権があるというわけじゃなくて
　ただ剣が大人しくしていて主導権を放棄している状態なだけってこともありえるわよ」

「それってつまり、剣が本気出したらどちらが勝つか分からないってことか」

「マリーが言いよどむとしたら、その方がそれっぽくない？」

　どうもこう、話し合いをしていると自分の考えの浅さというか、そういうので胸が痛くなる。
強敵と戦うときに仲間と話してるときとか、アリスは特に作戦を考えるのが巧い。
経験の差というのはここまで出てくるのかと。
　もっとまともな考察が出来る知恵と知識がほしい。

「……ふふ、やっぱりあなた、別の世界のアウザーよね。考えてること、顔に出てるわよ」

　シズカはそう言って、珍しく目を細めて柔らかく微笑んだ。普段流し目で少し意地悪に微笑むから、
ごくたまにこうやって見せる「人らしい」笑みはギャップも含めてシズカらしからぬ温かみがある。

「え、そっちの世界の俺もこんなのなの？」

「そうね、あなたくらいの年齢の頃のアウザーはそんな感じ。大人になったら大丈夫だから、安心してね？」

「何が大丈夫……」

「遅くなってすみません、今戻りました」

　俺が言いかけると同時に、どこからともなくセレスが姿を現した。俺への挨拶もそぞろに、なにやらシズカへ耳打ちをしている。

「……そう、やっぱり。伝言も？」

「えぇ、ちゃんと伝えておきましたよ。少し残念そうな顔をしていました」

「うふふ、らしいわね……ってことで、アキト」

「おう？」

「私がメルンテーゼにたどり着いたきっかけのアウザーが見つかったわ。
　あとはもうこの一揆を終わらせれば帰れると思うから、私たちの方は大丈夫よ」

　シスにも伝えておかないと、と安堵した様子で小さく息を吐くシズカ。

「やっぱりというか、フォッセグリムとしてこの世界をうろうろしてたみたい。
　しかも妖精の森よ。私たちが一度も行ってないところ。道理で会わないわけよね」

「あ、そういえば。アウザーでしたっけ、彼と同行しているエンブリオがいましたよ。
　カハクの姿をしていて、名前はたしか……、フェザー、でしたか」

「フェ、フェザーってカハクだったの……やだそれ見てみたい！カハクって蝶々の妖精みたいなのよね？」

「たしかに、フェザーは紅色の蝶々の羽を生やした少女……」

「ううん、ちがう。フェザーは男の子よ」

「ファッ！？」

　今後の進路がはっきり見えた余裕というのだろうか、いつもよりシズカが笑っている気がする。
フェザーが誰なのかわからないが、多分そいつもシズカと同じ世界の人物なのだろう。
この空気の温度の違いには、なんというか、大学とか進路が決まっている人と決まってない人くらいの差がある。
いやまぁ、シズカの今後の予定がはっきりしたのはいいことだな。

「あぁごめんなさい、アキト。フェザーっていうのは私のお友達みたいなものよ。
　私について来てくれたのにはぐれちゃってたのよね。ほら、何度か火の鳥系エンブリオと契約してほしいって言ったでしょう？
　フェザーは火の鳥だから、同じくエンブリオになってるのなら会えるかなーって」

　シズカのリラックスした雰囲気が辺りを包み、次第にこちらまで気が和らいできた。
これから控える戦いを思えば、この程度のことで焦ったりしてはいけない。
　すぐ近くに控えるベルフィ戦(久しぶりにトキサメと会える)、そして目指すはパラダイス戦。
今はとにかく、目の前の戦いに勝つことだけを考えよう。