エルはその銀色の箱に触れた。3メートルほどの立方体、その表面が波立つ。微弱な振動がむき出しの山肌に伝わり、小石が谷に向かって転げ落ちていく。

「おい、大丈夫か。まるで噴火でもしそうだぞ……」

　デビルが恐れを抱きながらエルに縋りつく。どうやらいつも偉そうにしているが、怖がりらしい。エルは振り向き、にこりと笑う。

「ぐわぁぁああぁあぁぁぁあああ！！」

　突然エルは箱に触れていた右手を抱え、地面をのたうちまわる！

「おい、だ、大丈夫か！」

　デビルは急にわたわたとし始めた。泣きそうな顔で、おろおろとエルをゆする。

「ぐわぁぁ、ぐわぁぁぁぁ！！」
「何が起こってるんだよぉ……我はもう泣きそうだよぉ……」

　本当にデビルが泣きそうな声を出し始めたので、エルはぴたりと動くのをやめ、両手をかざしながら立ち上がった。ニコニコと笑っている。

「なーんてね。驚いた？」

「やめてよ！　本気で心配したんだから！」

　涙を浮かべて抗議するデビル。だが、エルは相変わらずニヤニヤ笑っている。

「この箱は別に何でもないよ。さぁ、先を急ごう」

「そうかな、我は怪しいと思うが」

　そのときエルの荷物から黄色いびっくり箱が転がり落ちた。以前新たな出会いに備えて、エルが作ったものだった。

「あ、落ちましたよ」

　エルは冷たく箱を見下ろすと、拾うことなく先へと進む。

「それはもう必要ないよ。捨ててしまえ」

「せっかく作ったのに、もったいない」

　デビルはしばらくそのびっくり箱を見つめていた。


　エルの意識はいま箱の中にいた。銀色の空気が漂う空間で、エルは胡坐をかいていた。自分が箱から離れて歩き去っていく光景を見ていることしかできなかった。

（さて、どうしたものか）

　エルは閉ざされた空間の中、頭をかいた。

・・・日頃の恨みを晴らすつもりらしい。