調理場で出会ったのは奇妙な一団だった。透明化し身を隠しているが、その姿はあまりにも戦闘用とは言いがたい、一糸纏わぬ姿だった。円陣を組み、じっと黙ったまま膝を抱いて座る少女の集団。

　その中の一人がゆっくりと顔を上げる。その顔は、エルの良く知るミズリィのものだった。長い赤髪に、クールな顔つき。だが、いまその表情はのっぺりとした無表情だった。エルに気づいていないのか、ミズリィに良く似た少女は再び顔を伏せる。

（これは罠か……？　それとも何かの現象か……）

　エルは仲間たちにテレパシーで連絡してから、少女の集団に一人近づいた。何かあったら戦闘に入れるよう伝えてある。エル自身も、ショートテレポートなどで緊急離脱できる準備はできていた。エルの接近に対しても、少女たちは全く反応が無い。

　そのときである。

「ストップ！　あちきの荷物になにするんでち！」

　奇妙な声が突然エルの脳内に響いてきた。それはまるで猫が鳴いたような、少女の声だった。ミズリィのものとも、小人シュルケーのものとも違う。彼女の声はまるで脳を針で引っかいたように不快感を与えた。

「何者だ！」

　エルはすぐさまショートテレポートで少女の集団から距離をとり、辺りを魔法探査した。しかし、周辺の空間からは特に変わった第三者の存在は感知できなかった。ここにいないとすれば壁の中にいるか、床の下にいるかしか考えられない。

「あちきには名前が無いでち。名前をつけてくれるひとがいなかったでち。一般的には妖精のカテゴリに入るかもしれないでち」

「魔法で感知できない妖精なんかいるもんか！　どこにいる！」

　相変わらず脳に不快感を与える声がエルの脳内で響いている。仲間たちは不思議そうな顔でエルを見ていた。どうやらエルにしか聞こえないらしい。

「すぐそばにいるでち。でも、そこにはいないでち。紙の表面を探しても見えないところにいるでち。すぐ近くだけど、あちきは紙の裏にいるでち」

「亜空間か……！」

　残念ながら亜空間に干渉できるほどエルの魔法は強くはない。名前の無い妖精は、さらに話を続ける。

「あちきの荷物の影がそちらの時空に現れているでち。それに触ったらあちき怒るでち。せっかく透明化して対処してるのに、透明視能力で接触したら、時空干渉を起こして大変なことになるでち」