小川で出会ったフラウは、暇な時はいつも空を見つめてばかりいる。
　
　わたしが隣に来ても、視線をこちらに向けることはない。
　
　
　帰る場所がそこにあるのか、逢いたいひとがいるのか、それを知る術はないけれど、
　
　その様子は、どこかわたしに似ていると思った。
　

（リクエスト内容に少し意外そうな顔をした後で、ふふっと笑う。少しだけ寂しげに）

（周囲の音諸所は残ったままの結界が展開される。

結界展開を確認して、一息ついて。ピンと真っ直ぐに背筋を伸ばし、綺麗な姿勢を整えてから。
開かれた唇から、音が紡がれ始めた。

何処の言語とも分からぬ、不思議な響きの言葉。
低く、高く。
静かに、緩やかに。
密やかに、穏やかに。

単に周囲に“音が漏れないよう”展開された結界ゆえ、外部の音は普通に届く。
なのに世界をもがその音色に聴き入るかのように、周囲から全ての音や気配が消えた……そんな錯覚さえ抱く荘厳な、でも切なくどこまでも美しく響く音色。

数分の歌が静かに、余韻をもって終わった頃合で、簡易結界がアークによって解除され。
２人の方を改めて見つめる左右色違いの瞳には、揺れるような感情が浮かんでいた）

（普段歯切れのいい物言いをするシェリィにしては、珍しい様子を見せる。多分……少々恥ずかしいのだろう。似合わないのを承知で）

（そして自身の答えに対するロウ君の説明と、エル嬢の反応。耳を傾け、また様子を伺って。
最後まで話を聞いてから、まずはロウ君の頭に、ぽん、と片手を乗せた）

（ロウ君の方から今度はエル嬢の前に移動して。少しだけ悩んだ後で、小柄な少女の体を軽く抱きしめた）

（折れてしまいそうな少女の温もりを、そのまま片手に抱いたままでロウ君の方を見つめ）

（ロウ君とエル嬢、双方の目を真っ直ぐに見つめてから）

（「よかったって思ってるのと同じだ」——そう言いかけた寸前のところでレンツは口を噤む。
そうやって割り切れるものではないと、つい先ほど自分が言ったということを思い出した。

——何よりレンツには、二年前以降の過去がない。
機人の少年と同じく、また違う理由で、故人を想うことが解らないのだ。）

（苦し紛れの、少し意地の悪い言葉をうつむきがちに返す。
それはロウの今までを報いるためにか。……それとも、自分自身の何かのためか。）