ソレの発現を感知する。
ここではない何時か。今ではない何処かで、
『ソレ』が再び舞台へ降りたことを本能で理解する。
未だ名前も知らぬソレはきっと俺の事は知っているだろう。
俺がそれについてはあまり知らない。
どうやら今回の顕現はだいぶ近いようだが、読み取る事ができない。
僅かに齟齬が発生しているような感覚で情報の開示に失敗している。
そう言った感覚がある。

——ご都合主義 - デウス・エクス・マキナ
——荒唐無稽 - エクストラ
——英雄 - ヒーロー

そんな肩書背負って生きてる野郎なんざ反吐が出る。
何一つとして気に入る要素がない。
ソレに『与えられた権能』を使わない奴と『同じ』とは思われたくない。


しかし、まあ、今ならば、

部屋の中を鎖が何かを貪る様に動く。
俺はソレを笑みを浮かべながら見つめた。

私は彼の並べている商品の中で使いやすそうなペンと、可愛らしい日記帳を手に取った。
それからしばらく悩んだ据えに、少し小さめの救急箱と石鹸も手に取った。
　

私は小さな声でライアーさんに聞いたのだった。
　

少し首を傾げながら、裁縫箱を受け取り、手提げの籠に入れます。

そんなことを言って、ちいさくため息。

わたしにも、そんな弁舌の才能があればいいのですけど、と、羨ましそうに口にしました。

今後とも取引をしたいですから、と、自己紹介をするのでした。


それはそうと、と、フィーリさんに向き直り。

そう言うアムルの姿は、たしかに、とても身体が小さいというだけで、蜘蛛としての特徴は見えません。



ですが、呪いを操るものには、その身体に群れ集る蜘蛛の影がはっきりと見えます。


──爛々と輝く赤い瞳が、飢えた瞳を周囲に向けて。
──肉を喰むことを思い出すように、ギザギザに尖った鋏角を震わせ。
──柔らかな獲物を絡めた糸を辿るように、その細い前脚の先で、ギシギシと軋むように宙空を掻いています。

呪われろ。呪われろ。呪われろ。呪われろ。呪われろ。我らが仔を害するもの、呪われろ。苦痛の中で呪われろ。その肉を溶かし、最後の一滴まで呪われろ。啜って。呪われろ。我らは捕食者、増殖し、呪われろ。繁栄し、巨大になり、すべての肉を餌食とし。呪われろ。すべての小さきものを。呪われろ。食らうのだ、呪われろ。喰らうのだ。呪われろ。呪われろ。餐うのだ。呪われろ。


この仔は自分たちのものだと、蜘蛛たちの飢えた瞳が告げています。
蜘蛛の血が混ざっているとわからないはずがありません。

ですから、気になさらないで下さると嬉しいですと、アムルは言います。

少女は切れ掛けの街灯の様に存在を明滅させた。
その度に鎖が喰い込んでいく。

少女はまた鎖を食い込ませながら少女へと笑いかけた。