「では。ご期待に沿えるよう努力しますわ」

そう言うとベレーネは足早に人込みの中に消えていった。
彼女との商談に満足したのか、イサナも上機嫌だ。

「イサナ。金の問題は何とかなりそうか？」

「えェえェ。今に彼女がガッツリ稼いで来てくれますよ。
　私のお金をね。私の金。私の…クッ、ギヒッ…」

「双葉、行こうか」

「腹減ったなー。昼飯まだかー？」

「置いてかないでくださいよォ。ククク……あー結果が楽しみですネェ」

イサナはニヤニヤと嫌な笑みを浮かべている。
ずいぶんと期待しているんだな。一体どんな取引を交わしたのやら…





　〜　〜　〜　〜　〜　〜　〜　〜　〜　〜　〜　〜　〜　〜　〜　〜　〜
　　　　　　　　　　　　　　　昨日の事
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「取って置きの中の取って置きを出しましょうか」

そう言うとイサナは、自分のカバンの底から黒い金属ケースを引っ張り出す。
ケースの側面の蓋をスライドさせると、そこには四角いボタンが格子状に並んでる。
ベレーネは物珍しそうにそのケースを眺めていた。

「何だか面妖ですね」

「機械式はこの世界じゃ馴染み無さそうですねェ。
　今から暗号入れるんで。見ちゃダメですよ〜」

イサナは手元を隠しながらボタンをカチャカチャと素早く操作する。


　　　　ピー


イサナとベレーネは目を合わせる。イサナはニヤリと笑い、今度は慎重にボタンを操作した。

「……何かミスしました？」

「そのような事実は確認できません」


　　　　ピー　　ガチャッ


「ホラ空いた。さて…」

ケースの中は緩衝材と思しき黒いクッションがバンドで固定されており
それを外すと中に緑色の液体と不揃いな結晶粒が詰まった円筒の透明な
ケースが１０本並び、小さな黒い小箱と折られた紙束が数枚。

「う〜ん。ぱっと見て価値が分かりませんね」

「それはまァ。この中に結晶が有るでしょ。色々使い道はあるんですけどね」

イサナは筒の蓋を外してゆく。良く見れば、筒は二重になっており蓋も
ロックの付いたものが３つも。小さいながらかなり厳重な作りだ。
ピンセットでつまみ出された結晶は赤く輝いている。
心なしか脈打つように明滅しているようにも見える。

「綺麗ですね。宝石？って訳でもないですよね」

「この世界に来るとき考えたんですよ。現地で金に出来るものが何がイイか。
　どんな世界でも普遍的に価値有るモノじゃないとイケナイなァって。
　あと、かさばらないモノにしないと運ぶのがかったるい。
　それこでコイツの出番って訳ですよ」

ベレーネはイサナに差し出された結晶をまじまじと眺める。

「……僅かに暖かい。これは…エネルギーが込められている？」

「流石お目が高い。私の世界で製造してる固形燃料のクズなんですけどね。
　廉価品として大量に詰めてもらったんですよ」

「固形燃料？　……燃やせるんですか」

「ハハッ、火ィ付ける為に使うにはゼイタク過ぎますねェ」

イサナが結晶を手の平に乗せると、淡く輝き出しパリパリと光を放ち始める。

「然るべき人間ならこうやってね。エネルギーを引き出せるんですよ。
　ところがどっこい、この世界にはそんな人間居やしないでしょう。

　そこでもう一工夫。

　この欠片の力をコッチの世界のに人間でも使いこなす方法が有るんですよ。
　強い衝撃で砕けば良いんです。するとエネルギーを一気に開放して…ドッカーン」

イサナはニヤリと笑い、手をパッと広げてみせる。

「爆弾に貼り付けるだけの簡単なお仕事。
　今なら簡単な素材で作れる爆弾のレシピも付けちゃう」

そう言うと、髪束を１枚取り出した。
紙には幾つかの簡易爆弾の作り方が丁寧に書かれていた。

「これを貼り付けるだけで。そんなに効果が上がるんです？」

「……砕けると同時に爆風と熱線で半径１０ｍ以内は確実に消し炭ですね」

ベレーネは眉をひそめ、紙の爆弾図面を検めた。
イサナの言葉通りなら、扉を吹っ飛ばせるかどうかという粗悪な爆弾が、
コレを貼り付けるだけで、家一つ吹っ飛ばせる兵器になると言っているようなものだった。

「胡散臭いでしょ？そんなアナタにコレをどうぞ」

イサナは黒い小箱を取り出し欠片の横に置いた。
小箱は良く見れば、粘着テープでグルグルに巻かれた手作り感溢れる代物だ。

「今ならサンプル品を１個プレゼントしちゃいますよ。
　デモンストレーションで派手に一発かましてやれば良いんじゃないですか。
　ホラ、一揆のどさくさにまぎれてドカンと、ね？」


イサナとベレーネはしばらくニヤニヤと笑いながら、
いくらで売れるかの皮算用を始めるのだった。