占星術師は静かに語る。
まるで星ひとつない夜空のように。

ふと周囲が暗くなる。
彼女の姿が見えなくなり、君は一瞬狼狽する。
だが、暗い空間になおも占星術師の声は響く。


——共和制は全ての人が平等である事をうたいます

——そして、あらゆる人間に同じ義務を課します

——税金、政治への参加、国家への奉仕、そして

——戦争


景色が変わる。
それまで暗闇だった場所に出現するのは——軍隊。
それも、今まで見た事のない規模の。


——共和制はこれまでにない大規模な軍団の編成を可能とします。

——戦いが王と騎士の「専有」から解放され、「市民」となった民の義務となるからです。

——これが「国民皆兵」。共和制の生み出すであろう力。


だが、それはおかしい。
確かに武装した何万もの民は用意できるだろう。
だが、それがどれほどの力になる？
竹槍を持った少年が何百人いようと、重甲冑の騎士を打ち倒せるものか
金ばかりかかり、不合理な事このうえない。


——そしてこの何万何十万という大軍を支える武器があります

——銃です


銃。
メルンテーゼにも存在する武器。
その特性は「持ち主の能力ではなく、純粋に武器の力が威力を決める」


——銃ならば撃ち方を教えて戦場に放り込めば、ある程度の力にはなります

——さて、100人の騎士と1万の銃を持った民。軍配はどちらにあがるでしょう？


答えるまでもない。

景色がまた変わる
何万、何十万という人々が銃を撃ち合う光景。
そこには戦争の甘美さなど欠片も存在しない。
英雄が陣頭指揮を執り、人々を熱狂させ突撃する姿などない。
あるのは、何十万という顔も分からぬ人々が、同じく名前も知らない人間を撃ち殺すだけの惨劇。


——それを支えるのが、共和制によって解放された商人たちの力です

——王政は彼ら商人の力を抑える為にギルドをはじめとした様々な制約を課します

——共和制はその枷を外し、商人たちに途方もない力を与えます

——当然です。共和制とは、商人たちにも政治に参加する権力を与えるのですから

——ただでさえ財産の力を持った商人が、己を縛る枷を解き放つ力までもを得る

——自由経済という名の「化け物」が生まれるのです

——そして自由経済同士の争いになれば、相手の息の根を止める方法はただひとつ

——相手の「生産力」を根こそぎにするしかありません


再び暗転。
そして景色はさらに凄惨なものとなる。
銃を手に人々が街を焼き払い、爆発の魔法が当たりを飛び交う。
無辜の民が何人も生きたまま焼かれ、苦悶しながら死んでいく。

男も、女も。
子供も、老人も。
裕福な者も、貧しい者も。
誰一人分け隔てなく、平等に。


——そう、共和制の行き着く先はひとつ

——何万何十万という民が銃を持ち、同じ民を殺しあう世界

——「国家総力戦」の時代です



風景が元に戻る。
占星術師が、先ほどまでと何も変わらぬ様子で立っている。

占星術師はそこで一度目を伏せる。
何かを考えるように。何かを憂うように。

彼女は君を見据えた。
まるで、初めて自らの意思を表明するかのように