あれから何日経っただろうか。

マリア達の傷も大よそ回復し、穏やかな日々が続いていた。

マリアとルイーザは洗濯モノを干していた。
ボクはいつものように木の上で昼寝しながらそれを眺める。
ルイーザはそんなボクを目ざとく見つけ出す。

文句を言われてしまったのでしょうがなく木の上から飛び降りてボクは物干し竿に向かう。
なるほど、結構一杯あるな。久しぶりの快晴だったのでたまった洗濯物を纏めてやってしまったらしい。

なんだかんだで十一人の大所帯なのでちょっと気を抜くと洗濯物の量はすごいことになる。
干すだけでも結構時間がかかってしまったので、三人とも大分疲れてしまった。

ルイーザは一足先にダイニングの中に小走りで駆けて行った。

マリアは少し残念そうな顔をしてティーカップをテーブルに置く。
コーネリアというのは、マリアが元々治めていた領地・・・つまり、サタナエル公爵領のことだ。
やはり領地がどうなってしまったのか気になってはいたらしい。
だけど残念だが、生まれて半年で国を出たボクはユベール以外のことはろくすっぽ知らなかった。

ルイーザは黙って話を聴いてる。
結局マリアの正体が妖魔の国の八公爵だという話は基本他の孤児達には伏せられたままでいる。
だが、行きがかり上知ってしまったルイーザだけは別だった。が、彼女もそこにはあまり踏み込んではこなかった。

もちろん大丈夫なわけない。多分近いうちにカラバがボクを粛清しにくるだろう。

アイツを殺すのだけは絶対イヤだ。どうするか早く考えておかないと・・・。
そういやアイツの妖気をずっと感じないな。ユベールに一度帰ったのかな。

これには思わずルイーザも固まってしまう。

とうとうギャグと勘違いされた。

本当に知らなかった。どういうことだ。

マリアはかなり動転している。そりゃ知らなかったなら当然だ。
だがこっちはこっちで聴きたいことが山積みで。

もしくは、逃亡中に無意識で幼い頃に辿った道を選んでしまっていたのか。
どっちにしても、想像以上にマリアは何も知らなかった。

もちろんそれは冗談だ。

恐らくこれも認識阻害の術だ。いくらなんでも不自然すぎる。
マリアが幼少の頃ここで数年過ごしたのなら、ガルディオだってずっとアレキサンダーの名で呼ばれていたはずなんだ。

やっぱり術者はマリアじゃなくてリヴァランの方だったか。
それにしても、マリア自身も認識阻害の術で操作されてたとは・・・。
でも何でマリアにまで隠すんだ。リヴァランは何を考えてるんだ。

マリアも相当混乱してるな。後でゆっくり説明してやるか。
いや、この場合先に隠してる意図をリヴァランに問うべきなのか？くそ〜めんどくさいなあ。

何だこりゃ。マリアは実際にはほとんど絡んでないんじゃないか？ただ九年前逃げてきただけで。
いや、そもそもボクの本来の目的はマリア、というかエリスを見つけ出すことだったから本懐はもう遂げたのだけど・・・。

結局マリアのお父さん、ガルディオ・サタナエルはここで何をしようとしていたんだ・・・。

あ、これもまたダメな雰囲気が・・・。

更に奥があるってことか。やっぱりこれについても謎は一つ残った。

そういや、確かに森の西側に大きな窪地がずっと続いてる一帯があるな。あれは川の跡地だったのか。
なんで枯れたんだろ。


まぁとりあえずその辺のことは今後ゆっくり調べていこう。もう急ぐ必要もなくなったし。
当面はどうやって妖魔の国・・・考えたくはないけど恐らくユベールからの刺客をしのいでいくかだよな。

この事はマリアには絶対に伏せなければいけない。
もし、彼女が知ったらきっと命を捨ててもボクを守りにくるだろう。そんなことになったら本末転倒だ。
護衛対象が前に来てもらっちゃ困るんだ。この件は全てボク一人で片をつける。

アステマ・ファムをどこにどう保管しているかも聴いておかなければいけないけど、
これも聞き方に気を付けないといけないな。下手な聴き方をするとこっちの意図を勘ぐられる。
結局まだボクは故郷を捨ててないという疑いを持たれるのが一番面倒だ。

ルイーザはボクが何を考えてるかわかるんだろう。心配そうな顔でこっちを見てくる。

ボクはイヤリングを指でちらつかせながら、余裕の笑みをルイーザに返す。

それにしても暖かいな。ちょうどここは日差しが指してきて部屋の中がポカポカする。

ソファーから立ち上がろうとしたマリアをボクはそっと手で制す。

ボクはテーブル向かいに座っていたマリアの隣に回り込んで、そのまま彼女の膝に無遠慮に頭を預けた。

意図して誰かに甘えるのは、これが生まれて初めてな気がした。

社交的ご挨拶から一礼を一つ

おかしそうにひとしきり笑ってから、ステップを踏んであなたの周りをクルルっと回る

歩くたびに色々な色を写す。踏みしめる地面から、あなたの髪色、目の色を写すガラスのように、エッセの髪と眼色は変化していく。

ヘリヤが言いよどんだ様子に、心配そうに首をかしげる。

頷きかけて思わず突っ込み。

続くヘリヤの説明に心底不思議そうにヘリヤを見つめ返す。

呆れたように言うとヘリヤの瞳を覗き込んで尋ねた。

少しくすぐったそうな嬉しそうな笑みを浮かべて。

ニッコリと微笑む。

慌ててリヴァランの後ろに隠れると、刀に手をかける。

　　　　　　　　　　何も喋らない。それは誰よりも旧きから見守り続けていた。