教科書が思ったより一杯買えたのもあって、ボクは一揆の合間のたまではあるがスクールに通えることになった。

もっとも本当にたまのことなので、きちんと勉強が身につくのかと疑問なところかもしれないが
お生憎様、実のとこボクはリーズルやルイーザ達が勉強してる程度のことは生まれて三カ月くらいの頃に覚えてる。

一応ユベールを出る前に王立アカデミーの修士号くらいはとってるので必要ないんだけど
ボクはスクールというものに行ってみたかったので敢えて黙っておいた。


というわけで、今日はボクはスクールに行くのだ。
リーズル、ルイーザと三人組でシヤンハイルの町に出た。

リーズルは孤児達の中でも最年長のお姉さんだ。
基本的にしっかりものなんだけど、どこか抜けてるというか、掴みきれないところがあって・・・。

そう言って、しかめっつらをして右手をヒラヒラさせながら

一瞬時が止まる。

今の『いやいやいやいや』が一発ギャグだったらしい。全然わからん。

時々こんな感じになって、周りは非常に困惑する。

まぁそうは言っても基本的には孤児達を纏めるしっかりもののお姉さんだ。
面倒見が良く、優しいので小マリアだなんて呼ぶ人もいる。

さて、そんな感じの三人で初めてのスクールにいく。

授業の内容はまぁ退屈そのものだったのだけど講義で寝るような不躾はしなかった。
ルイーザは意外だって言ってたけど。


問題が起きたのは下校の時間だった。

リーズルが荷物を取ろうとロッカーを開けた時だった。
ひらっと、中から封筒が落ちたのだ。

リーズルはちょっと気まずそうに手紙を拾って、コソコソと差出人のところを見る。

リーズルはテヘっと笑ってパタパタと校舎裏に駆けていった。



ボクとルイーザは顔を合わせ、しかめっつらをして右手をヒラヒラさせる。

基本的に浮いた話の欠片もなかったイブリスホームにこんなことがあるなんて。

ボクとルイーザは当然その後を尾行した。これは義務だ。
裏庭のあまり人気のないところでリーズルはソワソワしながら手紙を読んでいる。

ねたみ全開で相手予想をするボク達。予想というより、きっと願望だ。





しばらくして、男が現れた。

短髪の爽やかな感じの青年だ。郵便バッグを持ってる。

二人はしばらく話合い、和気あいあいと笑っている。
どうもこれが初めてってわけではなかったみたいだな。

ボクとルイーザのバックにメラメラと炎が。いや、若干ルイーザのほうが燃えてる気がする。

こうしてボクとルイーザによる恋の妨害作戦が始まった。ボクが言うのも何だが、女は怖い。




二人はそのまま公園に向かった。
ベンチに座って何やら話をしている。

茂みに隠れてなるべく近づき、聴き耳を立てる。

しょうがないのでその辺を探して蛇を捕まえてきた。
今のルイーザには何故か逆らえない気迫がある。

和気あいあいと会話を楽しんでる二人の間にぽいっと蛇を投げた。
かわいそうに。

ボクの天才的なコントロールによって蛇は綺麗にリーズルの膝に落っこちる。

リーズルは驚いてロルフにしがみつく。
しかし肝心のロルフのほうといえば、ケロっとしたもんで。

そう言って、蛇をつまんで茂みのほうにポイっと投げた。
ええ、茂みの中にはボク達がいます。

蛇は綺麗にルイーザの胸元に命中した。

ルイーザが絶叫しそうになるところを慌ててボクが口を抑える。
ごめんルイーザ、悪いけど天罰覿面だよ・・・。




さて、二人のほうはというと、気が付いたらロルフの腕にしがみついてることに気付いて二人とも真っ赤になってる。

ルイーザは蛇命中にもめげずまだまだ続けるつもりらしい。
ああ、ルイーザ。嫉妬の炎に狂う君の姿もまた美しい。多分。

しれっと言うな・・・。

そう言ってルイーザは何を思ったのか堂々と公園の真ん中に駆けていく。

ルイーザの姿に気づくと、途端に距離をとって他人のふりをする二人。ここまで計算済みか悪女め。惚れ惚れするわ。
ロルフのことは関係ないと思ってるふりをして、ルイーザはリーズルの手をとってどっかに行ってしまった。

さてしょうがない。ボクもやるだけやってみよう。
軽く髪を整えて、モデル歩きでロルフの元に近寄る。

ロルフがそう言い終わるか終らないかのうちにサッと隣に座る。
眉を軽く八の字にしかめ、わざとらしいくらいの上目づかいでロルフの目をまっすぐ見つめる。

ああ、まぁ小さな町のことだ。ボクほどの美貌ともなれば多少噂にもなってるというものか。

色仕掛けは失敗した。


ほどなくルイーザも戻ってきた。

やがて日が暮れる。そろそろ帰らないとマリアが心配すると思うんだけど、リーズルはなかなか帰ろうとしない。
ロルフは少し心配そうにリーズルを見ている。

ボク達は茂みの奥で悶絶する。

ルイーザの鼻息が荒い。あ、ちょっとエロいこと考えてるな。

ボクは音もなく宝剣を抜いて投擲の構えをとる。

見ると、リーズルが目をつぶってロルフに顔を近づけ・・・

ボクとルイーザは身を乗り出して二人に注目する・・・が！
ロルフはリーズルの唇を軽く人差し指で制し、優しく笑って首を振る。

そう言ってロルフはリーズルの手をひいてエスコートし、二人は孤児院の方向に向かって去って行った。

帰り道、リーズル達に鉢合わせないようにシヤンハイルの森を少しだけ迂回して帰る。

まぁ一日見た感じ、ロルフは好青年っぽいしリーズルは幸せそうだしいっかって感じになった。

それから、孤児院に戻ったら大雨が降ってきた。
ボク達より近い道で帰ってたはずのリーズルがまだ帰ってなかったがマリアは珍しく全然心配した様子もなかった。

それからリーズルがズブ濡れになって帰ってきたのは夕食が済んだころだったけど、マリアは全然怒ろうともしてなかった。
それどころか、何か目配せして、リーズルは照れ臭そうに笑い、マリアはリーズルの着替えを取りにいった。

ルイーザが詰まらなそうに言い捨てた。

ボクは詰まらなそうにしてるルイーザも、大人の余裕のマリアも、照れ臭そうにはにかんでるリーズルも大好きだ。
主よ、願わくば今日のような日がこれからもずっと続きますように。




しかし、望まぬ運命は確実にゆっくり近づいてくる。
先日カラバと約束した次の情報交換の日はもうすぐだった。

ヘリヤの不安を軽く一笑する。
程なくして、少年が目を開いた。

ハルと比べ、随分と子供らしい…というか、喜怒哀楽がハッキリした性格のようだ。
状況が落ち着いてくると、トガノはシオンに今までの会話の流れを大雑把に説明していった。

シオンの人格が現れた頃から、トガノの口調がだいぶ変わってきている。
当人がそれを自覚しているのかは定かではないが…。

不安げな表情を浮かべてみせた。

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殆どヘリヤに引っ張られるような形で海へと繰り出していく。

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