アウレリオ派主体の一揆に参加してからどれくらい経ったろうか。
ある日ボクらは水辺で休息をとっていた兵士数名と遭遇し交戦状態になった。

奇襲に近い形であったので勝負はあっさりついた。

ボクは宝剣を逆手に握り返して兵士に迫る。

と、腕を振り上げたところで後ろからドンと衝撃が走った。

マリアがボクを羽交い絞めにしていた。何で？

マリアは懸命に振り絞るような声で兵士達に叫ぶ。
彼らは一瞬とまどった後に、服を抱えバタバタと逃げていく。

冗談じゃない。ボクは慌ててマリアの腕を振りほどこうと必死でもがく。

マリアはガンとして離してくれなかった。
・・・そうこうしてるうちに兵士たちはいってしまった。

ボクはやれやれと手をふる。

マリアは少し悲しそうな顔になったが、ボクも止まらなくなってた。

見たらマリアはポロポロと涙を流していた。

ボクはもうすっかり気を削がれてしまった。
くしゃくしゃと頭を掻き毟ってとりあえず剣を収めた。

そう言ってボクは逃げるようにその場を後にする。

そういえばマリアの涙を見たのは初めてな気がした。




それから数日間、ボクはマリアと口がきけなかった。

気まずかった。何故かわからないけど。
正しいことを言ってるのは圧倒的にボクだってわかってるのに、罪悪感みたいなものが心から離れなかった。
いっそカラバみたいにわかりやすく殴ってくれたほうが変に悩むこともなかったんだけどなぁ。

・・・泣かれたら、困るよなぁ。

マリアも似たような感じに思ってるらしく、ボクに話しかけてこなかった。
いや、何度か話しかけようとボクの周りをウロウロしてることには気づいたんだけど、気付かない振りをした。

そういえば、バッタの足をもいで遊んでたらルイーザにも窘められたな。
先日カラバにボコボコにされたのもそもそも無益な殺生を諌めるためだった。

マリアやルイーザはともかく、カラバはボクと同じ妖魔だ。
そうか、ボクが異質なのか。人間でも妖魔でも、無益な殺生は忌避するものなんだな。

死に対する忌避感の圧倒的な欠如。
そうか、これがボクの『穢れ』か。
ボクの中にはユベール領、数万の無辜の民の死と怨嗟が詰まっているからね。

しかし困ったな。ボクは途方に暮れてため息をついた。
とりあえず仲直りをしたいと思ったが根本を治せそうな気がしないのでどうしたものやら。


『ボクらをここに連れてきたのはマリアなんだから』

一方、ボクの見えないところでマリアも悩んでいたようで・・・。

既にどこからともなく触手さんが火や包丁を用意している。やる気満々である。

ハルが首を傾げながら言い直した。

暫し沈黙した後、再び口を開く。

ハルが目を閉じ、ゆっくりと呼吸を繰り返している。
トガノはそれを少し眺めると、ヘリヤにそっと囁いた。

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2人は思い思いの食事をしている最中だ。

ハハハと軽めの笑い声を上げた。

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ハルは静かに海辺を見つめ続けている…。