今日は十年に一度の異常潮位だ。
シヤンハイルの町や堤防は沢山の人が集まっていた。

彼女に指定された場所はシヤンハイルの町や堤防からはかなり離れた場所にあり、もちろん孤児院からも少し離れていた。
歩くには少し時間がかかると思い、馬車を準備していた。

レイチェルに別れを告げ馬車に乗り込んだ。


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——何度目だろう、こうして独り馬車に乗るのは・・・。


——あまり良い思い出はなかったりするのだけども、なんて思いふける。


——そして、彼女に指定された場所・・・それは間違いなく。



ガタンッ


馬車が止まった。


ゆっくりと馬車から降りると、やっぱりそこは・・・。

幼かった頃、『お宝がある。』なんて噂に惹かれて彼を無理やり連れて行った場所。
そして彼を危険に合わせた場所・・・。

幼い私にとってはトラウマになるほどの記憶だったから、二度と踏み入れたくはなかった。
それがまさかこんなことで踏み入れることになるなんて思ってもいなかったな。



ゆっくりと奥に進み、暫くするとあの場所に着いた。
昔と変わらず大きな鍾乳洞がいくつも光り輝き、まさにお宝だった。

フリエは相も変わらずどこからともなく現れていた。
もう今となってはそれが当たり前で驚きすらない。

アステマ・ファムを破壊する事、それはつまり彼女の言う通り『サタナエル』を失うことになる。

レイチェルの話を聞く限りでは今コーネリア領はアスモデウスに支配されている。
仮に私が捕まり、アステマ・ファムを使わないとしても領地の人達を人質に脅すことも出来るからだ。

つまりまだアステマ・ファムの為に『生かされている』。


だからアステマ・ファムを破壊したら、アスモデウスがコーネリア領を残す理由がなくなる。
つまり領を本当の意味で捨てるということ・・・。『サタナエル』と言う名も完全に消滅するだろう。

唖然とした。
水神の巫女？

「まぁ、別に気にしてないけどもね」なんて笑っていた。

あの時、私が洞窟にアルスを連れてこなければ？
魔物に襲われて・・・アルスと一緒に逃げなかったから？

まさか人の命が必要だったなんて・・・。
お父様がアステマ・ファムの破壊を成し遂げられなかったのも納得である。

人の命を尊いものとし大切にしていたお父様がそんなことできるはずはないからだ。
アルスの時も自分の計画を省みず力を使ったお父様なら。

　
　　　　　　右手に、魔術力場を形成した。