29日目の分ね！∈(・ω・)∋


挑発行為としては優秀であろう安っぽい歓迎の装飾に、ティムラハは酷く顔を歪めた。
何を「研究」しているのか。確証には至れねども、思い当たるものはある。
だからこそ、そこに足を踏み入れ探る気にはなれなかった。
不快不愉快に幾重もの輪を掛けた、腐った臓腑の臭気が立ち込めているに違いない場所に、誰が踏み込むものかと嫌悪をあらわにする。
無性に腹立たしい装飾をぶち壊してやろうかと、
適当な『弾』になるものが無いか周囲を見渡していると、扉の奥を覗き込んでいたアマハルが、大仰な仕草で振り返った。

何故か困ったような顔で見上げてくるアマハルに、
そういえばこの『少女』は、と思い出したティムラハは、一層皺を眉間に寄せ上げた。
肺の空気を長く細く吐き出し、盛り上がった皺を解しながら両手で顔を覆った。

指の隙間から、アマハルが首をかくんかくんと左右に揺らしているのが見えた。
一際大きく首を傾けると覗き見上げる目が見開かれ、左手首を掴まれ強引に引き寄せられた。
崩れた前傾の態勢で、嫌々ながらも人形のような焦点の定まらぬ瞳を見返す。

顔が近い。普段ならば吐息のかかる距離であるが、生憎と死体である彼女を刻む鼓動は存在しない。
これが本来のアマハルなら、即座に頬を殴っただろうな、と他人事のように想像する。
しかし全く異なる外見は殴ること拒ませ、改めて観察するという珍妙な選択肢を選ばせた。

観察といっても視線を逸らすことは無い。
錆のような、くすんだ赤色の瞳をじっと眺めていると、粘る沼底に沈むような眩暈がする。
光彩に映り込む自身の姿が爆ぜた水面のように、千切れて歪む錯覚すら覚え、はぁ、とため息を吐く。
きっちりと切り揃えられた、細い前髪がふわりと揺れた。

開いている右手で、アマハルの額を軽く弾く。
あいたっと可愛らしい声を上げて、アマハルが掴んでいた手首を放した。

大げさに痛がるアマハルを無視して未だ目を回して倒れている研究員の襟首を掴み、引き摺って扉の向こう側に投げ捨てた。
そして開けっ広げの扉を、開いた時よりも乱暴に閉じ、その場を離れた。



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トモが猫又になったようです。