<Days42>


「それじゃ、何を作ろうかなぁ？」

　私は市場で野菜を見ながら今晩作る食事のことを考えていた。
　当番制で、交互に作るようにしたは良いけれど、自分のレパートリーの少なさに最近は少し寂しさを覚えていた。

「もっと美味しい物食べて欲しいな……」

　部屋で待つ大事な人の事を考えながら私は走小さく呟いていた
　そんな私は市場の中を複雑な表情で歩いていると、気がつくと来たこともない区画へと入り込んでいた。

「あれ？市場にこんな所あったっけ？」

　何度も来ているはずの市場で、見た事もない区画があるという不思議に私は首をかしげながら元の通りに戻ろうと辺りを見渡すと、とある露店に視線が釘付けになった。
　なんということはない、どこにでもあるような露店だったが、なぜかそこのお店に置いてある料理の本らしき品に視線が釘付けになった。
　釘付けになったまま、そこの店番であろう老婆に私は気がつくと声を掛けていた。

「おばあさん、そこの本って料理の本ですか？」

　先ほど気になった本を指さしながら聞くと、老婆はゆっくりと視線を上げると笑みを浮かべて口を開く。

「そうだよ、お嬢さん。この本はね、「自分の」大事な人に食べて貰うための特別の料理を作るレシピの書かれた本なんだよ」
「大事な人に……」

　私は思わずそう呟いたのを老婆は聞き逃さなかった。

「お嬢さんには大事な人が居るようだね、きっとこれはこの本がお嬢さんに読んで欲しがっているんだろうさ、安くしておくから買ってお行きなよ」
「そ、そうなのかな？」

　私は気がつくと言われるままに財布を取り出しその本を受け取っていたのだった。


　§§§§§§§§§§§§§§§§

「何ぼーっと立ってるんだよ」

私は誰かに軽く突き飛ばされてはっとした。

「あ、あれ？」

　私は突き飛ばされて蹌踉めいたところで白昼夢から冷めたように、はっとなった。
　気がつくといつもの見慣れた市場の通りでぼんやりと立ち尽くしていたのだった。

「あれ？私はいつの間に戻っていたんだろう？」

　まるで狐に包まれたような気持ちになったが、その手に持った買い物袋の中には先ほど買ったはずの本がしっかり入っていたのだった。

「夢じゃ……なかったんだよね？」

　なんか一揆のことで疲れてるのかも知れない、そう考えるとため息をつきながら私は帰路へとついたのだった。


TobeContinued……

→訳：思考能力が低下し、警戒心などが薄れる。

→訳：催淫効果

→訳：逆も然り　香水利用中は他人への抵抗が薄れる

照れ隠しのように笑う。