<Days22>


　私はライアーさんに売って頂いた日記帳を手に取りその最初のページを開いた。
　自分でもこのメルンテーゼに来て日記をつけはじめる事になるとは全くもって、予想もしなかった。
　少しペンを走らせてみて、ずいぶん書きやすいペンと日記帳だと思った。

「ライアーさん随分いい物くれたのかな？今度ちゃんとお礼言わないとだね」

　私はこの日記帳をくれた優しそうな笑みを浮かべた金髪の商人のことを思い出していた。

「そういえば日記とか、いつも長続きしたこと無かったな……」

　可愛いと買ってきては数日後には書くのをやめてしまっていた数々の日記帳のことを思い出し、私は思わず苦笑してしまう。

「今度は大丈夫かな？今までとは違うしね」

　今までは何となく書き始めていたが、今回のそれは何か違うと私は感じていた。
　これまで生きてきた中で考えた事はなったが、この世界では明日の保証など全く無いのだということを考えざるを得なかった。

「命の危機か……」

　そう改めて口から言葉に出すと、その言葉の重さに、ぶるりと身体が震えるのを止められなかった。
　小さく震える身体を、抱きしめてその震えを止めようとする。
　しばらくそうしている事でやっと震えが止まった私は、改めて日記帳と向き合った。
　そして最初の一ページ目をめくる。

「やっぱり最初のページはここに来たときのこと……だよね。今日の日記じゃなくなっちゃうけど……」

　私はこのメルンテーゼに来たときのことを思いだすと、少し憂鬱な気持ちになった。

「いつまでも落ち込んでいても仕方ないもんね、吹っ切らないと」

　私はそう決意すると真新しい日記帳に記憶を思い出しながら、書き始めた。

「アレはともちゃんが流行のお洒落だからってこのハートをつけてくれたことが原因だったんだよね……」


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「古都よ、私はお前がもっと真面目な生徒だと思っていたよ」
「え？ど、どういう事ですか？」

　突然昼休みに生徒指導室に呼び出された私は担任の先生と向き合っていた。

「何って、言わなきゃいけないかね？」

　小さくため息をつきながら担任の先生は私の事を見た。

「はい……。私には何が何だかさっぱり……」

　本当になんでこんな事になっているのか判らなかった私は、しどろもどろになりながらも聞き返した。

「それだよ、それ」

　そう言って先生は私の太ももの辺りを指さした。

「私の足がどうかしたんですか？太すぎて校則違反だ、とかそう言う訳じゃ無いです……よね？」
「冗談のつもりか？それは。だとしたら全く笑えんぞ」

　先生はそこで言葉を句切って、私の事を睨み付けた。
　いつもは優しい先生だが、こういう時の迫力は普段を知ってるために余計に恐く感じられた。

「太さじゃない、その太腿につけているマークのことだよ」
「マーク？このハートマークのことですか？」

　私は先生の言った言葉の意味が心底わからずに聞き返す。

「そうだ、まさかそのマークの意味を知らんわけでもあるまい？」
「意味……ですか？友ちゃん……、いえ高村友美さんが流行のお洒落だからって言ってつけてくれたんですが、なにか意味があるんですか？」

　その私の事場を聞いて、先生は言ってもいい物か迷っているかのように言葉につまる。

「また高村か……、今言うと君もショックを受けそうだからここに書いておいたから落ち着いたときに読みなさい。それから風紀を乱したと言う事で、君は停学一週間だ、良いね？」

　そう言って先生は一通の手紙を私に手渡して、その処分を言い渡した。
　今まで停学など受けたこともなく、比較的に真面目に生活してきたと思っていた私はそれだけで、頭から血の気を引いていた。
　手紙で後ほどというのは先生なりの配慮だったのだろう。
　そしてそこには停学にならざる得ない理由も書いてあるのだと思うと私は手が震えるのを抑えられなかった。
「それじゃそう言う事だから、今日はもう帰りなさい、いいね？」

　そう締めくくると先生は立ち上がる。

「はい……」

　先生の言葉に私はただそう答えることしかできなかった。


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　そこまで思い出すとまさかただの冗談のつもりだった友達のそんな何気ない一言が学校で問題になり、停学処分ににまでなるとは私は全く予想もしていなかった。
　普段からどちらかと言えば、大人しく真面目だった私は家族にその事を伝えることもできず学校を出た後、家に帰ることも出来ずに街をうろついていた。
　行くあてもなく彷徨っていて、小さな公園で星空を見上げていた私に、どこからか「助けて」という声が聞こえた気がした。
　そしてまばゆい白い光に飲み込まれたかと思うと、この世界にただ一人たたずんでいた。

「なんかこうやってみると、凄く荒唐無稽な話だよ……ね」

　この世界に来た後先生から渡された手紙を捜したが、どこかに落としたのかどうしても見つからなかった。

「何が書いてあったんだろう……」

　私はそのなくした手紙のことが気になって仕方がなかったが、なくなった物は仕方ないとあきらめるしかなかった。。
　そして私は太ももにつけた印に視線を向けた。
　これをつけた事で先生にしかられたときは正直ショックだったが、自分のいた世界とのつながりのような気がして、消す気にはなれなかった。

「本当は消した方がいいのかもだけど……」

　思わずそう口に出して呟いたが、これを日記に書くべきか悩んでしまう。

「書かなくてもいいよね」

　なぜだか未練がましい自分が恥ずかしい気がして私は日記に書くのをとりやめた。
　そして私は一息ついて、ペンを置いた。


　この世界にに来ていろいろな人に出会った。
　シルマリィちゃんのように全く考え方の違う人もいたし、普通に話が合う人もいた。
　私は少し前に出会った、とても無愛想な褐色の肌の少女のことを思い出して、くすりと笑った。

「そうだ、こっちにバレンタインがあるかはわからないけど、チョコレートとかあげたら喜んでくれるかな？」

　飴をあげたら喜んでくれたことを思い出して、そんな事を考えた。
　そして私は後でチョコレートを作ろうと心に決めたのだった。

「こう思いだしてみると本当、この世界にきたのは何でなんだろうな……でも……」

　私はそこで言葉を切って瞳を閉じた。

「どうしてよりも、これからどうするかだよね。私もルーシェちゃんみたいにここでできることを探したい……」

　再びペンを手に取った私は、そう書いていたページの最後に書いて日記帳を閉じた。

「これが私の道しるべになるといいな……」

　日記帳をいつも持ち歩いている鞄にしまいながらそう私は呟いた。


TobeContinued……

今回の日記はライアー・スウィンドラー(760)、ルシエ・ソルブランシェさん(2010)、シルマリィ・ルゥさん(65)のお名前をお借りしました、感謝！！